もしも明日が2-10
「この中か?」
風にざわめく竹藪を前に早稲田が言った。
「ああ。
ターゲットの特徴は…」
「いい。
全部頭に入ってる。」
早稲田はぶっきらぼうに言うと一人竹藪に入って行った。
溜め息をつく若菜と共に火葉も竹藪に入って行った。
当然、竹藪の中に街灯はない。
思った通り月明かりは薄く周りは完全な闇と、笹の葉が風にさざめく音に支配されていた。
「…ここに誰かいるんでしょう?」
凛とした声。若菜だ。
しかし応答はない。
「私、知ってるのよ。
アナタの名前を聞かせて?」
やがて、風に紛れて小さな声が聞こえた。
「野田…正志。」
「そう、野田くん。
どこにいるの?」
またしても応答はない。
「こっちよ。」
若菜は小声で二人に言うと野田を探している振りをして歩き始めた。
「野田くん。
どこなの?」
どうやら若菜は先程の声で野田のおおよその位置を割り出したらしかった。
「ねぇ、野田くん。
アナタのことを聞かせて?
アナタはどうして泣いているの?」
泣いている?
「どうして…」
「わかるでしょう?
私も異能力者なのよ。
仲間が苦しんでいるのを放っておけないわ。」
若菜の言葉はどこまでが本当なのかわからない。
だが、その声は深い慈愛に満ちているかのように優しかった。
感想
感想はありません。