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人斬りの花 34

[376]  沖田 穂波  2010-01-01投稿

7-3 心路つ

『その時の私の命令はこうでした。親子共々斬れ。だが抄司郎は盲目だった当時のあなたに同情してしまったのです。だから,しくじった。人斬りに余計な感情は要らないのです。』

『そんな‥』

震え出した椿などお構いなしに,武部は話し続ける。

『しかしあなたの目が治った今,再び抄司郎は,五年前の命を果たそうとしています。』

『嘘‥!』

椿の目から悲痛の涙が溢れ出た。

『嘘ではありません。
現にあなたの側に、抄司郎は居るではないですか。今もきっとあなたを付け狙っていた仲間と何か策でも考えているのでしょう。』

武部は苦笑し,

『さあ,決めなさい。』

と刀を抜き,その剣先を椿に突き付けた。

『愛する抄司郎に斬られるか,今ここで私に斬られるか。』


椿は力無く俯き,
やがて,言った。

『‥私は,』

柱に助けられながらふらふらと立ち上がった。

『幸せです。この幸せは壊れない。今なら,無敵なんです。』

『‥。』

『だからきっと,愛する人に斬殺される事すらも幸せだと感じてしまうのかもしれませんね。』

『つまり,抄司郎に斬られる事を望むのだな。』


『‥はい。』

椿は微笑んで見せると,
武部に丁寧にお辞儀をして家を出て行った。


一方,
抄司郎は道場時代からの友人,近藤平太を呼び出していた。

『平太,確認したい事がある。』

『‥何だ,怖い顔して。』

平太は欠伸をしながら気だるく言った。

『お前,俺達の居場所を,武部に伝えたな?』

平太はちらりと抄司郎を見ると,高らかに笑い出した。

『何を言っている。
何故俺がお前を裏切るような真似を。』

『お前も武部に雇われていたのだろう?椿の追っ手として‥それから,』

『‥。』

『俺を斬る為か。』

それを言葉に出した時,抄司郎は自分の胸が締め付けられるのを感じた。

≠≠続く≠≠

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