もしも明日が2-12
「…よくあんな嘘、堂々とつけるよな。」
呆れた声で早稲田が言った。
「そうね、でも緋狩ならそう言うかなって思ってたら勝手に口がね。」
「それにしても、今回何で俺を引っ張り出した?
こんなことなら俺は必要ないだろ?」
「ええ、そうね。」
若菜の口角が僅かに上がっているのを見逃す早稲田ではない。
「…若菜、お前ワザと俺を引っ張り出したな。
ホントは知ってただろ。」
「さぁ?どうかしら。」
若菜は笑顔ではぐらかす。
どうやらシラを切り通すつもりらしい。
「ま、そういうことにしとくよ。」
「そ?」
「さて、俺たちも帰るか。」
二人の家は現在地から逆方向にある。
「早稲田。」
若菜が早稲田を呼び止めた。
「…明日からまた、資料室にいるわ。」
「あいつもか?」
「昼休みはいるかもね。」
「……気が向いたらな。」
「あらあら。
素直になったわね。
前は緋狩にだって時間かかってたのに。」
「俺だって成長してんだ。」
「あら、そう。
それと、明日から紗綾《さや》が帰ってくるわ。」
その瞬間、早稲田の表情が歪む。
「マジかよ」
「ええ。楽しみだわ。
いいわね、早稲田?」
早稲田の右手がスイと上がる。
右手を上げたまま闇に身を溶かした彼が振り返ることはなかった。
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