アオイ、そら。2
1-2 悲しき蒼
『多哀,お前は何者だ。』
私は朝登校するなり,
一人読書する多哀の前に仁王立ちに立った。
多哀は,一瞬たりとも本から視線を外さない。
シカトと言うやつだ。
『おい答えろ。多哀蒼。』
私は多哀の読んでいた本を取り上げた。
その時,手が滑ってその本が鈍い音を立てて床に落下した。
教室に居た皆が一斉に私と多哀に注目した。
【君の様な人間には興味ないよ。】
奴にこんな事を言われ,昨日から少し苛立っていたのだ。
皆の視線を気にせずに話を続けた。
『怠慢通りで何してた。あの先は神社だ。行き止まりだろ。』
怠慢通り。この言葉に教室がざわついた。
『五月蝿いな‥,』
多哀は深い溜め息をつくと,ゆっくりと椅子から立ち上がった。
(余談だが多哀が意外と背が高いことに気付いたのは丁度この時だ。)
落ちた本を拾いながら,多哀は言った。
『関わるな。俺に。』
更に教室かざわついた。
そこに居た殆どの生徒が多哀の声を初めて聞いたらしい。
一方奴は何事もなかったかのように,平然と教室を出て行った。
私は呆然と,多哀の後ろ姿を見送ってしまった。
― アイツの目は,人を停止させる。
そう身を持って実感していたのだ。
『反実凄いネ!!多哀と喋った人第一号だヨ。』
親友の彩草(さいぐさ)が私の肩を叩いた。
彩草なだけに私はぐっさんと呼んでいる。
『ぐっさん見た?アイツの顔。』
『うん,意外とイケメンだよネ。中の上って所かナ?』
出た,ぐっさんの品定め。
可愛いのに彼氏が出来ないのは,こんな癖があるからだと私は見ている。
『そうじゃなくて,アイツの表情だよ。』
ぐっさんは少し考えてから可愛らしく小首を傾げた。
『表情ねェ,多哀君にも,表情ってアルの?』
― 無い。
あるのかもしれないが, 多哀は喜怒哀楽を面に出さない。アイツはいつも冷酷な無表情だ。
『ぐっさん私,授業サボる。』
私は多哀を追う為に荷物をまとめながら言った。
掴みどころの無い,
未知なアイツの事を知りたくなったのだ。
『りょ―かいッ。』
ぐっさんは,
興味なさそうに笑っていた。
・・続く・・
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