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流狼−時の彷徨い人−No.36

[460]  水無月密  2010-01-20投稿
 力無く立ち上がると、半次郎は深々と頭を下げた。
「…今回の事で己の未熟さを思い知りました。今一度、修行の旅に出ることをお許し下さい」
 言い終えて顔を上げた半次郎に、政虎は我が眼を疑った。
 凜として輝いていた半次郎の瞳が、今は見る影もなく光を失っていたからだ。
 その瞳を目の当たりにし、政虎はかける言葉を失ってしまった。



 さらに成長して戻ってくると信じ、半次郎を送り出した政虎。
 帰路についてから、終始無言だった彼が口を開いたのは、その視界に郷愁誘う春日山城をとらえた時だった。
「……半次郎が戻ってくるまでに、武田との同盟をまとめておかねばならんな」
 独り言でも呟くように語った政虎に、直江影綱が問いかけた。
「信玄がそれを蹴った今となっては、実現は難しいかと思われますが」
「それでも成さねばならぬ。半次郎がいったとおり、それが戦国の世を終わらせる、一番の近道なのだからな」
 なにより政虎は、半次郎が苦悩する姿をみたくなかったのだろう。

 影綱にもそれは理解できたが、それを実現できる上策がうかばぬ彼は、軍師の立場にある己を恥じていた。
 その心底を汲むように、政虎が切り出す。
「策はある、両家が納得する人物をたてて盟主とし、その下に上杉と武田がつく形式ならば、信玄も納得するだろう」
「将軍すら欺く男が、納得して従う人物など果たして……」
 はっとして言葉をつまらせた景綱は、上杉と武田の両家を結び付ける、唯一の存在に気付いた。
「…そうだ、半次郎だ。実の子が盟主であれば、信玄も納得しよう。
 なにより半次郎には、両家の上にたつだけの将器がある」
「ですが、半次郎を亡き者にしようとした信玄が、その下につくことを良しとするでしょうか?」
 そう問われた政虎は、複数の感情が入り交じった、複雑な表情をうかべた。
「信玄にも迷いがあった。もしあの時、奴が躊躇なく刀を振り下ろしていたなら、わしは半次郎を救えなかっただろう。
 十年前とて同じだ。上手の手から漏れるはずのない水が洩れたのも、きっと親の情からなのだ。
 だから半次郎も、信玄を切ることができなかったのだろう」
 そう語った政虎は、悲しげに前方を見つめていた。



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