サークルチェンジ #34
「爺さん、俺バッティングなら自信あるぜ!」
青山はバットを構える。
「ほぉ自惚れ右バッターか。外に逃げるスライダーにバットがくるくる回る光景が目に浮かぶわ。」
店主は煙草に火をつけ、腕組みをしながら宙を見上げる。
「何!?俺中学ん時4番打ってたんだぜ!」
なおも続く店主の挑発に青山は目をギラつかせる。
「そのバットは己の力を誇示しようと打ち気に逸れば逸るほど空を切る。先っぽが重いんで当たれば飛ぶが、一度振り出したら止まらん。」
店主は煙草の先の灰を灰皿に落とす。
かの豊臣秀吉や前田利家が所有したとされる天下五剣の一つ、大典太の名を冠したこのモデル。
直径こそ高野連の規定いっぱいの67?を確保しているが、全長は本家の特徴を踏襲してか一般的なものよりやや短い。
限られた全長で900?以上という規定を満たそうと、極端にヘッドに重量配分を持ってきたことで凄まじい飛距離を生む。
だが豪快な一打の感触を一度味わうとその魅力にとりつかれ、ボール球に手を出しやすくなってしまう。ヘッドに重量が偏っているためハーフスイングで止めるのが難しく、外角の際どい球をカットでファウルしようにも短い全長が仇となる。
このバットで結果を出すには、打ち気に逸らず冷静に球を見極め、甘い球を仕留める選球眼が一層必要となる。
「兄ちゃん分からんか?
ワシの挑発にすら乗るバッターがキチッと球を見極め、ボール球に手を出さずにおれるとは思えんな。」
店主は短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
「それに兄ちゃん、店に入る前から苛立っとったろ。気にいらんもんには己の力を見せつけ抑え込もうとしとるんが顔に出とる。そんなもんに野球界の天下五振は扱えん。出直して来な!」
青山の自制心や忍耐のなさを見抜いた店主が鋭い眼光で引導を渡す。
(ちっくしょう!このクソジジィ。でも確かに…俺は我慢ができねー奴かもな。今日も電車で女連中睨みつけたし、今も…)
未熟さを見透かされた青山はおもむろにバットを戻し、あらかじめ選んでおいた野球用具の勘定を無言で済ませると、隼人とともに店を出る。
(南蛮人のような面構えのあの若造…年の頃十五、六といった所か。中身はさすがにまだ青いが、大典太に目をつけるとは…)
店内に残った店主は一人感慨にふけっていた。
青山はバットを構える。
「ほぉ自惚れ右バッターか。外に逃げるスライダーにバットがくるくる回る光景が目に浮かぶわ。」
店主は煙草に火をつけ、腕組みをしながら宙を見上げる。
「何!?俺中学ん時4番打ってたんだぜ!」
なおも続く店主の挑発に青山は目をギラつかせる。
「そのバットは己の力を誇示しようと打ち気に逸れば逸るほど空を切る。先っぽが重いんで当たれば飛ぶが、一度振り出したら止まらん。」
店主は煙草の先の灰を灰皿に落とす。
かの豊臣秀吉や前田利家が所有したとされる天下五剣の一つ、大典太の名を冠したこのモデル。
直径こそ高野連の規定いっぱいの67?を確保しているが、全長は本家の特徴を踏襲してか一般的なものよりやや短い。
限られた全長で900?以上という規定を満たそうと、極端にヘッドに重量配分を持ってきたことで凄まじい飛距離を生む。
だが豪快な一打の感触を一度味わうとその魅力にとりつかれ、ボール球に手を出しやすくなってしまう。ヘッドに重量が偏っているためハーフスイングで止めるのが難しく、外角の際どい球をカットでファウルしようにも短い全長が仇となる。
このバットで結果を出すには、打ち気に逸らず冷静に球を見極め、甘い球を仕留める選球眼が一層必要となる。
「兄ちゃん分からんか?
ワシの挑発にすら乗るバッターがキチッと球を見極め、ボール球に手を出さずにおれるとは思えんな。」
店主は短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
「それに兄ちゃん、店に入る前から苛立っとったろ。気にいらんもんには己の力を見せつけ抑え込もうとしとるんが顔に出とる。そんなもんに野球界の天下五振は扱えん。出直して来な!」
青山の自制心や忍耐のなさを見抜いた店主が鋭い眼光で引導を渡す。
(ちっくしょう!このクソジジィ。でも確かに…俺は我慢ができねー奴かもな。今日も電車で女連中睨みつけたし、今も…)
未熟さを見透かされた青山はおもむろにバットを戻し、あらかじめ選んでおいた野球用具の勘定を無言で済ませると、隼人とともに店を出る。
(南蛮人のような面構えのあの若造…年の頃十五、六といった所か。中身はさすがにまだ青いが、大典太に目をつけるとは…)
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