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山のモーツァルト6

[273]  ヒカル  2010-02-21投稿
秋一はいつもの公園に戻ってきた。
午後になればさすがに人が多く、彼がいつも使っているベンチも、今は子供と母親の憩いの場となっていた。

「せんぱ〜い!」
振り向くと、見知った眼鏡の女性が息を切らせながら走ってきた。

福島 春香(ハルカ)

秋一が働いていた出版社の後輩である。秋一が働いていた時にはまだアルバイトだった。

「裏は取れたのか。」
秋一が聞くと、
「はっ…はい。えと、確かに…木村は…ゲホゴホ…。」
「全く…ちょっと落ち着け。てか携帯で連絡しろよ。」
秋一は呆れながら春香に缶コーヒーを渡した。
「あ、ありがと…ございます…ってこれホットじゃないですかぁ!?」
「黙って飲め。んで報告しろ。」

秋一は空いたベンチに座ると、春香が缶コーヒーを飲み終わるのを待った。

「ふぅ…で木村なんですけど、先輩の読み通り三日前に成田で海外行きの便に乗ってます。行き先は…。」

「ウィーンだろ。」

「ふぇ?あ、はい。ファーストクラスで確かにウィーンへ行ってます。」

秋一の読みはこうだった。
十年前に蒼がピアノを
弾けなくなったのが調査済みである以上、演奏ができない限り、彼が海外に行くのは困難である。
ならばそれを治すため原因の地であるウィーンに行くのが最も確率が高いと。

「で、もう一つビッグネームが。」
春香は続けた。
「黄月 雪乃が乗ってます。」
これには秋一も驚いた。

黄月 雪乃(コウヅキ ユキノ)

黄月財閥の長女である。
黄月財閥と言えば、石油、重工業などで一代の財を成した黄月 法蔵が有名で、世界でも有数の財閥である。

だが、法蔵も病には勝てず、余命も後僅かだと言う。

ここでやはり起きるのは、後継者争いである。
法蔵には四人の子供たちがいた。その内の一人が雪乃である。

(雪乃は音楽評論家としても有名だ。絶対木村とも接点がある。)

秋一は静かに思考に入る。十年前の記憶から今回の事の推測を立てる。

「あの…先輩?」

「福島…俺達もウィーンに行くぞ。」

「え…えぇっ!?」

秋一の推測と記者の勘は告げていた。

間違いない。雪乃は妖精の存在を知っている。

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