山のモーツァルト7
話はホテルに戻る。
「そんな曲は知らない。作曲者は?」
「さぁ、元が民謡だから。誰が作ったまでは知らないわ。」
「民謡?」
蒼にはわけがわからなかった。てっきり誰か有名な音楽家の非公開作品だと思っていたからだ。
「やはり、知らないのね。じゃあ私と一緒に来て?」
「…?」
蒼は訳がわからないというような顔をした。
「あら、忘れたの?私と一緒にウィーンへ行くと。お店で言ったじゃない。」
「ちょっと待て。俺はそんなことは一言も…。」
と、ここで蒼は自分の異変に気付いた。
(まさか…それも俺が失神している間に…?)
「どうしたの?」
女が心配そうな顔でこちらを覗きこんできた。
「いや…そう言えば、あんたの名前は?」
蒼は思わず話を逸らした。
「確かに名乗っていなかったわね。黄月…と言えばわかるかしら。」
黄月 雪乃。蒼は聞かずとも理解した。音楽を志す者なら一度は聞く名前だ。
「何で…あんたみたいなのが俺を…。」
蒼もこれには驚いていた。現役の国際的ピアニストならともかく、自分みたいな引退者に目をつけるなんて。
「貴方の才能はここで埋もれさせて置くにはもったいないわ。…と言いたい所だけど。」
雪乃はそこで一拍置くと、
「貴方が十年前、体験したことに関係しているわ。」
十年前
ウィーン
蒼がピアノを失った場所。
「そこで、『妖精の歌』を見つけたら…。」
蒼は一瞬ためらった。本当に彼女は自分の味方なのか。彼女が何を企んでいるのかは分からない。だが、
「俺はピアノが、弾きたい。それだけだ。」
雪乃は内心驚いていた。蒼の言葉にではない。彼の目にである。その目には、複雑な感情が入り交じりながらも、一つの
蒼い炎が揺らめいていた。
「…気持ちは決まったようね。」
そう言うと彼女は、一枚の紙を蒼に手渡した。
ウィーン行きのチケットである。
「まもなく、盛大なコンサートが始まるわ。このウィーンで。」
彼女は、一拍置くと蒼に微笑みかけた。
「貴方をモーツァルトにしてあげる。」
「そんな曲は知らない。作曲者は?」
「さぁ、元が民謡だから。誰が作ったまでは知らないわ。」
「民謡?」
蒼にはわけがわからなかった。てっきり誰か有名な音楽家の非公開作品だと思っていたからだ。
「やはり、知らないのね。じゃあ私と一緒に来て?」
「…?」
蒼は訳がわからないというような顔をした。
「あら、忘れたの?私と一緒にウィーンへ行くと。お店で言ったじゃない。」
「ちょっと待て。俺はそんなことは一言も…。」
と、ここで蒼は自分の異変に気付いた。
(まさか…それも俺が失神している間に…?)
「どうしたの?」
女が心配そうな顔でこちらを覗きこんできた。
「いや…そう言えば、あんたの名前は?」
蒼は思わず話を逸らした。
「確かに名乗っていなかったわね。黄月…と言えばわかるかしら。」
黄月 雪乃。蒼は聞かずとも理解した。音楽を志す者なら一度は聞く名前だ。
「何で…あんたみたいなのが俺を…。」
蒼もこれには驚いていた。現役の国際的ピアニストならともかく、自分みたいな引退者に目をつけるなんて。
「貴方の才能はここで埋もれさせて置くにはもったいないわ。…と言いたい所だけど。」
雪乃はそこで一拍置くと、
「貴方が十年前、体験したことに関係しているわ。」
十年前
ウィーン
蒼がピアノを失った場所。
「そこで、『妖精の歌』を見つけたら…。」
蒼は一瞬ためらった。本当に彼女は自分の味方なのか。彼女が何を企んでいるのかは分からない。だが、
「俺はピアノが、弾きたい。それだけだ。」
雪乃は内心驚いていた。蒼の言葉にではない。彼の目にである。その目には、複雑な感情が入り交じりながらも、一つの
蒼い炎が揺らめいていた。
「…気持ちは決まったようね。」
そう言うと彼女は、一枚の紙を蒼に手渡した。
ウィーン行きのチケットである。
「まもなく、盛大なコンサートが始まるわ。このウィーンで。」
彼女は、一拍置くと蒼に微笑みかけた。
「貴方をモーツァルトにしてあげる。」
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