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子供のセカイ。147

[425]  アンヌ  2010-02-23投稿
美香は、どくどくと嫌な音を立てて鳴る心臓を抱えきれずに、絶望した。違う、絶望したのは心臓のせいなんかじゃない。今この時に始まったことでさえない。
美香は、ずっと目を背け続けていた。
本当は、舞子が最初に“子供のセカイ”を開いたその時から、ずっと言い様のない絶望を感じていたのだ。
耕太は美香の逆鱗に触れることをわかっていて、それでも一歩も引かなかった。
「だから、お前は本当に舞子のこと助けたいと思えるのかって聞いてんだよ。」
「は……あ、当たり前でしょ!?それにね、舞子はまだ小学三年生なのよ?そんな小さな子に、物事の良し悪しの区別がつくわけないじゃない!」
「んな事はわかってる!でもなぁ、お前はこれまで舞子のために、どれだけの犠牲を払ってきた!?“真セカイ”じゃ、ちっとも笑わなくなって、友達は皆離れていって、舞子の“子供のセカイ”と戦っては傷を作って、理由を言わないもんだから親に怒られて…!
“子供のセカイ”でこんな酷い戦いをしなきゃいけないのも、全部全部舞子のせいだろっ!!」
耕太の怒鳴り声に、美香は全身を震わせた。それは驚きや恐怖から来るものではない。強烈な怒り、悲しみから来る震えだった。
「あんたに何がわかるのよ!!」
美香は力一杯耕太を叩いた。衝動から来る暴力を行使したのは久しぶりのことだった。耕太は痛そうに顔を歪め、しかし反撃はしてこない。
「それを言って何になるの!?あんたが舞子をどうにかできるとでもいうの?……私、私は……!」
美香の瞳にみるみる涙が浮き上がった。
「舞子を憎みたくない……!」
美香は感情のままに、わっと両手のひらで顔を覆って泣き出した。苦しかった。苦しくて、苦しくて、でも、曲げられない答えが自分の中にあることを知った。
(私はさっき一瞬でも舞子のことを憎いと感じた……。でも、それだけじゃない。私の中には、まだ舞子を信じたいという気持ちも残ってる……。)
そうでなければ、美香の代わりに舞子への恨みを叫んでくれた耕太に対して、こんなにも反発が起きるはずがない。美香にはそのことが嬉しかった。美香は顔中を涙で濡らしながら、手のひらを伝い落ちる水滴を感じながら、心の中ではホッと息を吐いていた。
舞子を憎む。それはすなわち、美香の世界の中心が崩れるということを意味していた。

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