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チンゲンサイ。<30>

[524]  麻呂  2010-02-24投稿

『ユウ!!ぐずぐずするな!!』



『お‥おうっっ!!』



こんな時間に映画館を目指し、


親子で目を血走らせ、館内の通路を走る姿は、


昼間では考えられないほど、こっけいだっただろう。



『ちょっと君達2人。待ちなさい。』



今の状況に不釣り合いな、


やけに落ち着いた口調で背後から響き渡るその声に、


俺達親子は、立ち止まらざるを得なかった。


警備員2人に取り押さえられた俺達は、

黙って、その指示に従った。


いや、むしろ取り押さえられた事が、俺達親子にとって、ラッキーだったのだ。




『全く。いい大人が、こんな事をしていたら駄目じゃないですか。

しかも親子揃って。
他のお客様の御迷惑になるって事くらい分かるでしょう?!』



俺達が案内された場所は、


テレビドラマで万引き犯などが、捕まった時のシーンでよく登場する、


事務所の一角にある小さな部屋だった。


『申し訳ありません。柄の悪い若者5人に絡まれてしまいまして、逃げていた所で‥‥。』



俺と同年代に見えるその2人の警備員は、


椅子に座っている俺とユウの顔を、じろじろ見ながら、


あきれた顔で、ふぅっとため息をついた。



『あなた方に絡んでいたというのは、この方達ですか?!』


ふと、声のするドアの方を見ると、別の警備員が、


さっきの若者5人を連れて、部屋の中へ入って来るではないか。



『はぁ‥そのとおりです。』



5人の若者は、しょうすいした顔で、うなだれていた。


警備員に事情を説明し、解放されるまでの間、


俺達は、退屈な説教をえんえんと聞かされた訳だが、


ひとまず大ピンチを逃れる事が出来たのだから、


今日は、自分の悪運の強さと“握りっぺ&鼻くそボール”を誇りに思う事にした。

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