チンゲンサイ。<30>
『ユウ!!ぐずぐずするな!!』
『お‥おうっっ!!』
こんな時間に映画館を目指し、
親子で目を血走らせ、館内の通路を走る姿は、
昼間では考えられないほど、こっけいだっただろう。
『ちょっと君達2人。待ちなさい。』
今の状況に不釣り合いな、
やけに落ち着いた口調で背後から響き渡るその声に、
俺達親子は、立ち止まらざるを得なかった。
警備員2人に取り押さえられた俺達は、
黙って、その指示に従った。
いや、むしろ取り押さえられた事が、俺達親子にとって、ラッキーだったのだ。
『全く。いい大人が、こんな事をしていたら駄目じゃないですか。
しかも親子揃って。
他のお客様の御迷惑になるって事くらい分かるでしょう?!』
俺達が案内された場所は、
テレビドラマで万引き犯などが、捕まった時のシーンでよく登場する、
事務所の一角にある小さな部屋だった。
『申し訳ありません。柄の悪い若者5人に絡まれてしまいまして、逃げていた所で‥‥。』
俺と同年代に見えるその2人の警備員は、
椅子に座っている俺とユウの顔を、じろじろ見ながら、
あきれた顔で、ふぅっとため息をついた。
『あなた方に絡んでいたというのは、この方達ですか?!』
ふと、声のするドアの方を見ると、別の警備員が、
さっきの若者5人を連れて、部屋の中へ入って来るではないか。
『はぁ‥そのとおりです。』
5人の若者は、しょうすいした顔で、うなだれていた。
警備員に事情を説明し、解放されるまでの間、
俺達は、退屈な説教をえんえんと聞かされた訳だが、
ひとまず大ピンチを逃れる事が出来たのだから、
今日は、自分の悪運の強さと“握りっぺ&鼻くそボール”を誇りに思う事にした。
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