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ベースボール・ラプソディ No.22

[605]  水無月密  2010-02-24投稿
「ただきついだけの練習だと、八雲の奴が露骨に嫌がりますからね。苦労しましたよ」
 苦笑する哲哉。
 この天才ともう一人の異才がいるからこそ、この部には笑顔と笑い声が絶えないのだろうと、大澤は思った。

「真壁は自由奔放だからな、お前も大変だろう」
 大澤がそういうと、一瞬哲哉の表情が曇ったようにみえた。
「確かに大変ですけど、不思議と間違った事はいわないんですよね、あいつは。
 …それに、自分には八雲に負い目があるから」
「負い目?」
 哲哉は静かに頷いただけで、それ以上は何も語らなかった。

 大澤もそれ以上は詮索しようとせず、即座に別の話題へと話を変えた。
 だがそれが、図らずも前の話題の本質をつくことになる。

「前から気になっていたんだが、小次郎というのは何者なんだ?」
 大澤の口からその名がでると、哲哉は驚いて逆に聞き返した。
「誰からその名を?」
「俺の入部を賭けて勝負した時、お前と真壁がマウンド上で話していただろ」
 哲哉はさらに驚きをかさねた。
「あれが聞こえたんですか?」

 マウンド上での会話をバッターに聴かれぬようにするのは当然であり、あの時の哲哉もそう心掛けていた筈だった。
 にもかかわらず、それが大澤の耳にとどいていたのだから、驚くのも無理はない。

「目と耳は人一倍きくほうでな、大歓声の中でピッチャーの独り言が聞こえたこともあるぞ」
 大澤の常識はずれな身体能力に、驚きを越えて呆れる哲哉だったが、すぐさま神妙な面持ちで少考し、そして思慮深く口をひらいた。
「……ほかの先輩達は知っている事だから、大澤さんにも話しておきます。
 …小次郎は、八雲の一つ違いの弟です」
「一つ違いならば、今は中三か」
 頭<かぶり>を振る哲哉。
 意味がわからずに首を傾げる大澤に、哲哉はその瞳に悲しみの色を湛えて語った。
「……小次郎は去年の冬から、中ニのまま永遠に歳をとることはなくなりました」

 大澤は言葉を失い、その場に立ちすくむことしかできずにいた。
 その大澤をよそに、哲哉は遠くを見つめ、言葉を綴り始める。



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