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大切な何か

[923]  hiro  2010-02-28投稿
朝。窓から注ぐ淡い光が、机の上の写真立てを照らしていた。
青い海と空を背景に、僕と陽子が楽しげに笑って、並んで立っている写真である。

幸せ。この写真を見るたびに、そう思う。
そしてこの部屋には、幸せが充満している。

「今日もいいお天気ね」
陽子が笑った。
「久々に、二人で散歩でもしないか」
僕がそう提案すると、彼女がまた笑った。
しばらくして僕らは散歩に出掛けた。

「わたし、本当に幸せだわ」
「こんな日が永遠に続けばいいなぁ」
そうやって歩いていた僕らの前に、小さな妖精がふわりと現れた。
「あなたたち、本当に幸せそうね。そんな二人に、この不老不死の薬を差し上げましょう。二人ともこれを飲めば、きっと永遠に幸せでいられるわ」

僕らは何の疑いもしないで、同時に声をあげた。
「ぜひ、譲ってください!」
妖精は薬を僕らに渡してから、思い出したように言葉を付け足した。
「そう言えば、その薬には副作用があるの。その薬の服用者、つまりあなたたちにとって一番大切な何か……、それが目に見えなくなってしまうのよ。触れることもできなくなるの。ずっとね。それでもいいならどうぞ」

僕にとっての大切な何か……。
お金………いや違う………愛……間違いない!陽子にとってもそうだ!
僕らにとって一番大切な何か、それは愛だ!
愛なんてもともと目に見えないし触れることもできない。
だから、そんな副作用なんか、こわくない!!

僕らは一緒にその薬を飲み込んだ。
「一晩も眠れば薬が効いて不老不死の身体になれているはずよ。副作用があることも忘れないで」
そう言い残して、妖精はふわりと消えた。



僕と陽子は、互いに互いを一番大切に想っていた。
当たり前すぎて忘れていた。
お互い大切な人のいない世界で、永遠に生きていくなんて、そんなこと………




朝。窓から注ぐ淡い光が、机の上の写真立てを照らしていた。
青い海と空を背景に、僕が独り淋しげに笑って立っている写真である。

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