夢十夜 〜第四夜〜
こんな夢を見た。
夜、私は布団に横になって、わずかに開いた押入のふすまの奥の暗がりを見つめている。
子供の頃から私は暗がりが怖かった。
何かがじっと息を潜めていそうで怖かった。
おかげで十代の半ばまで私は一人で寝ることすら恐ろしかった。
やがて、ふすまの奥の暗がりから何かがもぞもぞと這い出てきた。
赤ん坊だった。真っ赤な、裸の赤ん坊だ。
それが私に向かって話しかけてきた。
嗄れた男の声だった。
お前は間違って生まれてきたのだ。
本当は俺が生まれてくるはずだった。
おかげで俺はこんな暗がりにしか棲むことができない。
赤ん坊は恨みを込めて言った。
代われ、俺と代われ。
今度はお前が暗がりに潜むのだ。
私はひどく不気味な心地だったが、不思議と怖くはなかった。
赤ん坊の言い分に腹が立った。
私の肉体と魂はこんなにも現世と癒着して離れられんのだ。
勝手なことを言いおってこの亡者め。
もと居た場所へ帰れ!
私がそう言うと、赤ん坊は私の顔をじっと睨んだ。私も赤ん坊の赤黒い、不気味な顔を見つめた。
しばらくすると赤ん坊はまたずるずると這って、ふすまの奥の暗がりに帰って行った。
私はその暗がりを見つめて思った。
私は大人だ、もう暗闇は怖くない。
そして、こんなにも身勝手だ。
そこで目が覚めた。
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