子供のセカイ。152
何の笑いも、喜びも映さない瞳。強い拒絶の意を放つ、孤高の戦士の瞳。
耕太は美香のこの目が嫌いだった。自分は一人だと、誰からの救いも求めてはいないのだと、暗に告げる瞳は、あまりに冷酷で悲しかった。
しかし美香は、それを己のためにやっているのではない。自分以外の人間を危険に巻き込まないために、わざとそのように振る舞っているのだ。
“真セカイ”でそれに気づいたのは、耕太ただ一人だった。美香の両親は、娘が心の病でも抱えたのではないかと不安がり、あんなにたくさんいた美香の友達は、豹変した美香を怖がって一緒に遊ぶのをやめてしまった。
美香を孤独に陥れたその表情を、今、美香にさせている自分の弱さがたまらなく許せなくて、耕太の鳩尾は鈍く痛んだ。
女たちの内、二人ほどが、するすると足音を立てずに近づいてきた。全員で襲いかかってこないところを見ると、どうやら美香の言葉を理解したらしい。
美香はそれっきり、耕太の方を見ず、女たちに向き直り、あまつさえ自ら彼女たちの方へと歩き出した。
「美香!」
美香は耕太の必死の声にも振り返らなかった。耕太は走り出そうとして、誰かに両脇から腕を差し込まれて羽交い締めにあい、身動きの取れない状態に陥った。黒装束の女の一人が、耕太を拘束したのだ。
「やめろっ!離せこら!」
「――黙れ。」
絶対零度の声に、耕太はぞくりと肌が粟立った。
持っていた剣を別の女に叩き落とされたかと思うと、たちまちそれは元の木の枝へと戻ってしまった。どの道この剣で戦い続けることはできなかったのだと悟り、耕太は絶望にも似た気持ちを味わう。美香は、それに気づいていたのだろうか。だからこんな無謀な行動に出たのだろうか。女の黒い手袋をはめた手で顎をつかまれ、無理やり上を向かされると、そこには長剣を構えた女たちの前で跪いた美香の姿があった。
知らず、耕太の全身が、痙攣するように震え出していた。
「……鼓動が速い。『クルシイ』のか?」
先刻戦った女に比べてよく喋る女は、しかしあの時の女と同じように、人の苦しみという感情にひどく興味をそそられるようだった。耕太の顔を横からのぞきこんだ女の赤い瞳を、耕太は涙の溜まった目で精一杯睨みつけた。
「……頼む。何でもするから、美香を助けてくれ。」
蚊の鳴くような声で懇願しても、女の表情は変わらなかった。
耕太は美香のこの目が嫌いだった。自分は一人だと、誰からの救いも求めてはいないのだと、暗に告げる瞳は、あまりに冷酷で悲しかった。
しかし美香は、それを己のためにやっているのではない。自分以外の人間を危険に巻き込まないために、わざとそのように振る舞っているのだ。
“真セカイ”でそれに気づいたのは、耕太ただ一人だった。美香の両親は、娘が心の病でも抱えたのではないかと不安がり、あんなにたくさんいた美香の友達は、豹変した美香を怖がって一緒に遊ぶのをやめてしまった。
美香を孤独に陥れたその表情を、今、美香にさせている自分の弱さがたまらなく許せなくて、耕太の鳩尾は鈍く痛んだ。
女たちの内、二人ほどが、するすると足音を立てずに近づいてきた。全員で襲いかかってこないところを見ると、どうやら美香の言葉を理解したらしい。
美香はそれっきり、耕太の方を見ず、女たちに向き直り、あまつさえ自ら彼女たちの方へと歩き出した。
「美香!」
美香は耕太の必死の声にも振り返らなかった。耕太は走り出そうとして、誰かに両脇から腕を差し込まれて羽交い締めにあい、身動きの取れない状態に陥った。黒装束の女の一人が、耕太を拘束したのだ。
「やめろっ!離せこら!」
「――黙れ。」
絶対零度の声に、耕太はぞくりと肌が粟立った。
持っていた剣を別の女に叩き落とされたかと思うと、たちまちそれは元の木の枝へと戻ってしまった。どの道この剣で戦い続けることはできなかったのだと悟り、耕太は絶望にも似た気持ちを味わう。美香は、それに気づいていたのだろうか。だからこんな無謀な行動に出たのだろうか。女の黒い手袋をはめた手で顎をつかまれ、無理やり上を向かされると、そこには長剣を構えた女たちの前で跪いた美香の姿があった。
知らず、耕太の全身が、痙攣するように震え出していた。
「……鼓動が速い。『クルシイ』のか?」
先刻戦った女に比べてよく喋る女は、しかしあの時の女と同じように、人の苦しみという感情にひどく興味をそそられるようだった。耕太の顔を横からのぞきこんだ女の赤い瞳を、耕太は涙の溜まった目で精一杯睨みつけた。
「……頼む。何でもするから、美香を助けてくれ。」
蚊の鳴くような声で懇願しても、女の表情は変わらなかった。
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