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鳥カゴ

[309]  こころ  2010-03-13投稿
鳴いている。何という鳥の声だろうか。切ないような、苦しいような、淫らなような。この密やかなさえずりは、今は亡き鳥の亡霊か。きっとそうだ。壁際の空っぽな鳥カゴの辺りから聞こえるのだから。

鳥カゴは僕の知る限り、鳥がそこに納まっていた例しはない。先の住人が置いていったのか、又は一夜の滞在者の遺棄物であったのか。一本足のスタンドとその頂点からぶら下がる細円いドーム型の柵、この二つから成る構造物はコートを掛けるのにも、一輪挿しを飾るのにも適さなかった。
僕はそいつに合理性を求めるのを諦め、以後鳥カゴを鳥カゴとして受け入れることにした。

備え付けのヒーターにカップをセットし湯を沸かす。ティーバッグを入れマドラーでかき混ぜる。丁度良い温度になるまで、もう一度ノートパソコンに向かう。少し書き進めては消しを繰り返している。
今夜は彼が原稿を受け取りに301号室を訪れる日だ。ぬるくなった紅茶にブランデーを垂らし、口に付けると呼び鈴が鳴った。
姿見の前で髪をかきあげ、僕はドアに手を掛ける。

「お帰りなさい」
彼の手を取り、僕の鳥カゴの中へと誘い込む。

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