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空飛ぶリーマン

[252]  ジン・トニック  2010-03-15投稿
2012年地球は滅亡する―\r


春樹は疲れ果てた体で、毎晩決まってやって来る満員電車の人の波に揺られていた。

大学を卒業して地元の中堅企業に就職し、大学時代に知り合った彼女と結婚をした。

やがて2児の子どもが誕生し、一見順風満帆な幸せな生活を送っているかのように思われた。いや、実際そうであった。

しかし、想い描いていた将来像は理想と微妙にずれた現実の生々しさによって徐々に漂白されていた。


「お客さん、終点ですよ」と渋めの声で、駅員に起こされた。

「あぁ、すみません」

春樹はどうやら自分が眠り込んでしまったことに気づき、現実に引き戻された。

春樹は電車は終電だったことを思い出した。

「ここからでも歩けなくはないな、よし、歩こう」と呟くと、春樹は鉛のような体を携えながら自宅の方へ足を進めていた。

いつもならばタクシーを使ってしまうところだが、この日はなぜかその気にならなかった。

春樹はようやく自宅近くの住宅街まで歩いて来た。

「にゃー」

曲がり角のあたりから声が聞こえた。

覗いてみるとそこにはこちらを見つめる三毛猫が一匹いた。

「お前はどこから来たんだい?おうちはどこかな?」春樹は話しかけると、三毛猫は静かに歩きはじめた。

春樹は三毛猫の後をついていった。

春樹にはいつもと違う三日月に照らされているような気分だった。

2、3分歩いたところで三毛猫の足は止まった。

そこには見慣れない木箱が一つ置いてあった。

春樹はその箱にどこか懐かしさに似た感じを覚えていた。

春樹は子どものような好奇心に駆られて、どうしてもその箱を開けずにはいられなくなっていた。


“この箱を開けたら世界は変わる”


春樹はその文を一目見たものの、箱を開けたい衝動を抑えられず、すでに箱に手をかけていた。

しかし、箱の中身は空っぽだった。

「なんだ、何も入ってないじゃないか」

落胆した刹那、世界が遠く思われた。

春樹は視野がだんだん暗くなっていき、現実世界から離されていくのを感じていた。

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