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ランバッシュ! 2

[272]  クロランビー  2010-03-15投稿
蒸し暑い真夏の夜。夏虫が騒がしいほど歌う河川敷の一角に青年と少女の姿がある。

青年の左手には黒の長い布袋。その布袋を握り締め、彼は川の流れを眺めていた。

「暑い。・・・家帰ろう?」

声を発したのは黒Tシャツに短パンを着た少女。少女は暑そうに胸元をパタパタと扇ぐ。

そして青年の握る布袋に目をやり、口を尖らせた。

「ってかまた刃物なんか持ち歩いて・・・。警察に見つかったらアウトだよ? わかってる?」

「あぁ〜、わかってるよ。でもこれは『あいつ』のだから」

『あいつ』、という言葉に少女は呆れたように溜め息ついた。

「だからさ〜、理偉さんがいなくなってから五年だよ。あれは家出だった。事件でもなく事故でもない。何より手紙が見つかったじゃないのよ。理偉さんは家庭や友人関係とか色々と問題があって」

「わかってる」

少女の少しまくし立てるような口調を青年は短く遮る。少女は不満そうにまた口を尖らせた。

そのまま二人は黙り、静かに川の流れを見ていた。虫の鳴き声が一層大きくなる。

やがて、

「帰る。兄貴も遅いから早く帰ってきなよ」

少女は踵を返し帰ろうとする。

が、その動きは振り返ったところでいきなり止まる。

「? おい、どうし」

青年は振り返ったまま止まる少女の視線の先を見つめた。

そこにいたのは少女。あまりに『変わって』しまった少女。

足の膝裏にまで届きそうな長い髪。

しかし、その髪は昔のような綺麗な黒ではなく、白。着ている服が黒いワンピースなのでその白さが際立つ。

左目には大きな傷ができていた。

雰囲気も違う。何より、自分たちを見る目が昔とはまるで違う、光のない淀んだ瞳。

力が入っていないのか、ユラユラと体を左右に揺らす。その彼女と青年の視線がぶつかる。

そして、

「空、都」

呟くような声だった。しかし、その言葉を聞いた青年は彼女に向かって走り出していた。

「理偉!」

叫ぶ。彼女は、柏木理偉は夏菱空都にとって大事な友人である。

どんな姿になっていても構わない。何があったのかなんかは後回しでいい。

だが、

「兄貴! ダメっ!」

空都の妹、奏の声は空都の耳に届いていなかった。

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