−ギルドの剣− 1
「なら俺と一緒に、旅をしない?」
唐突に彼女はそう聞かれた。
自分はこの貧しい国の王の娘、今目の前にいるこの男の子には憎まれてもおかしくなかった。
なのに彼はそんなことを言うのだった。
豪華な装飾がついた自室の窓の手摺りに寄りかかって、ぼんやりと夕日を眺めているその背中にいきなり、「旅をしないか?」とぶつけられても困る。
何故?と一応聞いてみた。
「確かめたいんだ。世の中の人の心の中とか。神話みたいな歴史の話の真実とか」
言いながらこちらへ来る彼。私が窓脇に寄ると、彼も私がしたように夕日を眺めた。
「そんなことしてどうするの?」
私は不服そうに聞く。やっぱり似ている。
「んー…。どうしようかな。みんなの気持ちをつなぎたい。今の世の中はなんだか落ち着かないし」
どうしようかなって…。一瞬、何を迷ったの? そうは思っても、そのあとの言葉にはどこか共感出来るところがあった。
確かに今の連合国は落ち着かない。ノースブルグとの技術競争、南北ギルド同士の小競り合い、不安を訴える我が国の民。
父親の隣の玉座から国民の顔を見下ろしてきた私にもわかる。その彼が言うのだから、間違いのない話だろう。
国民皆が気持ちをひとつにし、この不安な時代を乗り越えたい。その気持ちはよく解る。でもどうやって?
「もうちょっとこう、お気楽にっていうか。北の人にのんびりすることを覚えてもらえたらなぁ」
やっぱりよく似ている。彼は私の兄にそっくりだ。こうして窓の向こうを仰ぐ様を見ていると、死んだ兄を思い出す。
でも話すことは妙にノーテンキだった。
「だから協力してくれない?」
「はあ…。 あなたそれって本気?」
「うん、結構本気かな」
結構って…。 そんな風でいいの?
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