子供のセカイ。153
跪いた美香の前で、二人の女たちがそれぞれに手に持った長剣を振り上げた。一人が失敗したら、残るもう一人が刃を降り下ろす手はずなのだろうか。そんなことをぼんやりと考えている自分に、どこまで他人事なのだと、美香は思わず苦笑した。まるで死ぬことを理解していないようだった。実際、あまりにも現実味がない。“子供のセカイ”はいつだってリアルだったが、今はそれさえも疑わしい。
観念した、というわけではなかった。ただ、他に方法がなかっただけだ。このまま二人とも殺されてしまうくらいなら、耕太を巻き込むくらいなら、自分一人が犠牲になった方がまだマシだと思った。
そう、仕方がないことなんだ。諦めにも似たその思いが、ふわりと一枚の木の葉のように宙を漂って、美香の頭の上にひらりと落ちた。思えばいつもそうだった気がする。
(私は決して、耕太の言うような「立派な姉」なんかじゃなくて、そうするしか仕方がなったから、ここまで舞子を追ってきたんだわ。)
言わば消去法。私情を挟まないただの義務感。
――そう思わなければ、美香はとても平静に構えてなどいられなかった。本当は怖くて、苦しくて、このむごさは何なんだろうと頭を抱えて泣き出してしまいたかった。
黒装束の女に殺されること。それは裏を返せば、舞子に殺されるということだった。
後ろから耕太の叫ぶ声、暴れる音が聞こえる。それらは始め潮騒のように些細なものでしかなかったが、つらい、という気持ちが大きくなるにつれ、だんだん耐え難いほどの騒音になって美香の心を揺さぶっていった。滅茶苦茶に美香の名前を叫ぶ声の、所々に嗚咽が入り交じる。その声のあまりの悲痛さに、美香の瞳にもじわりと涙が浮き上がった。そこでようやく美香は悟った。ああ、私、死ぬんだ――……。振り上げられた刃が、人の命を奪うには軽すぎる動きで、シャッと降り下ろされた。
……………………………
美香は、館の入り口を押し開けようと、両開きの扉に置いた手のひらにぐっと力を込めた。
「やめておいた方がいい。」
後ろから不意に知らない誰かに声を掛けられ、美香はハッと背筋を伸ばした。それから、ようやく周りの景色、今いる状況に気づいて、がく然と目を見開いた。
「――え?」
いつの間にか、美香は再びあの洋館の中に立っていた。
観念した、というわけではなかった。ただ、他に方法がなかっただけだ。このまま二人とも殺されてしまうくらいなら、耕太を巻き込むくらいなら、自分一人が犠牲になった方がまだマシだと思った。
そう、仕方がないことなんだ。諦めにも似たその思いが、ふわりと一枚の木の葉のように宙を漂って、美香の頭の上にひらりと落ちた。思えばいつもそうだった気がする。
(私は決して、耕太の言うような「立派な姉」なんかじゃなくて、そうするしか仕方がなったから、ここまで舞子を追ってきたんだわ。)
言わば消去法。私情を挟まないただの義務感。
――そう思わなければ、美香はとても平静に構えてなどいられなかった。本当は怖くて、苦しくて、このむごさは何なんだろうと頭を抱えて泣き出してしまいたかった。
黒装束の女に殺されること。それは裏を返せば、舞子に殺されるということだった。
後ろから耕太の叫ぶ声、暴れる音が聞こえる。それらは始め潮騒のように些細なものでしかなかったが、つらい、という気持ちが大きくなるにつれ、だんだん耐え難いほどの騒音になって美香の心を揺さぶっていった。滅茶苦茶に美香の名前を叫ぶ声の、所々に嗚咽が入り交じる。その声のあまりの悲痛さに、美香の瞳にもじわりと涙が浮き上がった。そこでようやく美香は悟った。ああ、私、死ぬんだ――……。振り上げられた刃が、人の命を奪うには軽すぎる動きで、シャッと降り下ろされた。
……………………………
美香は、館の入り口を押し開けようと、両開きの扉に置いた手のひらにぐっと力を込めた。
「やめておいた方がいい。」
後ろから不意に知らない誰かに声を掛けられ、美香はハッと背筋を伸ばした。それから、ようやく周りの景色、今いる状況に気づいて、がく然と目を見開いた。
「――え?」
いつの間にか、美香は再びあの洋館の中に立っていた。
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