耕太が美香を見上げて、「ほら、前に俺が言ってた奴だよ、覚えてるだろ！？」と興奮気味な口調で言ったのを聞き流しながら、美香は耕太と同じように片膝をついて、子供の顔をのぞきこんだ。
「あなたは誰なの？」
子供は笑みを引っ込め、神妙な顔つきになった。
「今私たちがここにいるのは、あなたが何かしたせいなの？」
美香はホシゾラの言葉をよく覚えていた。それにジーナの言葉も。

『……ありえないわ。“闇の小道”と触れ合えるのは、今、覇王と支配者と番人くらいだけど、彼らがそんな親切をするようには思えないし……。』
『だが、その子供はなぜそんなことができるんだ？領域を無視してラディスパークへ直結する『道』を作るなど、支配者にだってできるかどうか……。』

賢明な大人であるあの二人にそう言われ、訝しまれていた人物を、美香はそう易々と信頼することができなかった。
それに、こんな奇妙な状況になった直後に、いきなりこの子供が現れたのだ。しかも、「間に合ってよかった」だの「確かに起こった現実だ」だのと言っているからには、何かを知っているに違いない。
子供は初め困ったように微笑んでいたが、美香の真剣な瞳を見て誤魔化しきれないと悟ったのか、諦めたようにため息をついた。
「……君はやっぱり賢い子だね。そう、そうやって疑った方がいいんだ。何もかも素直に信じるには、このセカイは危険すぎる。」
「その点、耕太は少し危なっかしいかな。」と子供はまたやんわりとからかうような笑みを浮かべた。
何か言いかけた耕太を遮りながら、美香は鋭く尋ねた。
「あなたは私たちの味方？それとも、」
敵なの？と聞いた瞬間に、この小さな子供が襲いかかってくるような気がして、美香はその先を言えなかった。
子供は首を横に振り、ひどくゆっくりと口を開いた。
「……私は、“子供のセカイ”の前支配者、ミルバだ。」
美香と耕太は息を呑み
、一瞬空気が凍りついた。
「あ、あれ？でも、先代の支配者は舞子に倒されたっていう話は……？」
狼狽えて呟く耕太より、いささか美香は冷静だった。
「舞子が追放しただけで、この人が本物の支配者なのか、それとも偽者なのか、どちらかでしょう。」
「いや、違う。」
子供はまた首を横に振った。
「私は舞子に――正確に言えば覇王に処刑された、本物の支配者だ。」

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