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ミルトニア番外編

[379]  萩原実衣  2010-03-25投稿
坂を上った所にあるアンティークな喫茶店には、白髪で蝶ネクタイをした紳士的な装いのマスターがいる。
マスターは、朝 喫茶店に来るとまず、通りに面した大きな窓ガラスの掃除を始める。

濡れた新聞紙でキレイに磨き上げてから、拭き取る。

その窓からは、日々折々の景色が見られる。
そう…。

一枚の絵画のようだ。

次にくまなく店内を掃除する。

掃除が終わるといよいよ本業の珈琲の準備。

マスターは、何十種類の珈琲をその人の好みに合わせてブレンドしてくれる。

なんとも 贅沢な 喫茶店だ。

もちろん!ケーキも自家製。

とにかく、マスターは、凝り性である。

それが、多くのファンを引き寄せるのだろう。

いや…

違う。

マスターの 淡々としたやさしさに引き込まれていくのだろう。

何人もの出会い、別れ、誕生、裏切り、そして愛情を見てきた。

決して、変わることなく、変えることなく。

マスターが開店間近に必ずやることがある。

あの窓の下に見える花壇の手入れである。

花は、裏切らない。
ただ…その人を幸せにするためだけかのように咲く。

マスターの細かな心遣いである。

そして、秋になるとその花は、咲き誇る。
満開のその花の景色を見ながら語りあった二人は、必ず結ばれるという神話が生まれている。

マスターは、秋になると必ずこの花を満開にさせる。

そう…。マスターが愛した女(ひと)が…
生涯たった一度だけ愛された女(ひと)。
その人が好きだった花を今も咲き誇らせる。

その花は…
『ミルトニア』

花言葉は…愛の訪れ

(あっ、そろそろバイトに戻らないと… )
「マスター!ごちそうさま。バイト戻ります!」
「あぁ、由宇君。またゆっくりおいで。」

そして、マスターは珈琲の豆を引き始めた。

今日も ミルトニアの咲き誇るあの席は…愛の訪れを待っている。

(終り)

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