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最下層の唄

[273]  MM  2010-03-27投稿
もう何年待つだろう。

あまりにも広く、何もなく、ただ白いこの場所は、寒さとはこんなものかと思わせる。

いや、何もなくはない。美しい悪魔が一体、吊られている。

だが、それはあまりにも美し過ぎて、寒さを強調するだけだった。

来訪者も時にはある。英雄を殺した者や、騙した者たち。

だが一番面白かったのは、神になった者だった。

彼はその美声で人々に希望と愛と嫉妬と絶望を与えた。その知識で賢者たちを従えた。

しかしその声帯は奪われ、故に知識も出せず、ただひたすらに荊の冠を大事にしていた。

それがあまりにも滑稽で、私はそれを思い出す度に憐れみを覚える。

なんということだろう。彼はこんな悪魔にも、語らずして愛の片鱗を伝えたもうたのだ。

だが、それでも彼は罪人。しかもこんな所に来る程の。

仕方がない。本来ならばここが、こここそが最上であったのだから。

もう数えることも出来ない昔、悪魔が世界を作り、それを神が奪った時、なにもかもが逆転したのだ。

神の理念が正となり、我々の、生きることにただ貪欲であるということが邪となった。

そして、美し過ぎる悪魔はその全てを否定され、ここで吊るされることになった。

私はいわば管理者といったところ。

もう何年待つだろう。

悪魔は今日もただ吊るされて、かつての栄華を夢想している。

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