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ベースボール・ラプソディ No.27

[472]  水無月密  2010-03-31投稿
 その日、少し遅れて練習入りした大澤は、マウンド上で話し込む八雲と哲哉、それを傍らで見守る遠山と小早川の姿を目にした。
 どうやら哲哉が八雲に変化球を使用するよう提案しているようだが、当の八雲はそれに難色を示してごねているようだった。

「嫌なもんは、イヤだっ!」
 口論で哲哉に勝ち目がないと知ると、八雲は早々に逃走をはかった。
「あっ、逃げた」
「しゅうっ!」
「任せろっ!」
 哲哉の指示で、即座に小早川が追跡を始めた。


 この数週間、哲哉が課した過酷な練習メニューを熟してきた小早川の走りは、目に見えて進化していた。
 一直線にセンター方向へ逃げる八雲を、小早川は二塁ベース手前で捕獲範囲内にとらえていた。

「むっ!」
 小早川の気配に気付いた八雲が、二塁ベースをカタパルトにしてライト方向へと進路をかえた。
 すると小早川も瞬時に反応し、さらに八雲へと肉薄する。

 必死に振り切ろうとジグザグに逃げる八雲。
 だが、いっこうに小早川を引き離すことができない。
 見守る哲哉は、その成果に満足して頷いていた。


 八雲捕獲は時間の問題かと思われた。
 だが、小早川は八雲と肩を並べると、したり顔でそのまま抜き去っていった。

「……追い抜いてどうする」
 がっくり肩を落とす哲哉をよそに、今度は抜かれた八雲がむきになり、先行する小早川を追いだした。

「だから、お前が追いかけてどうするんだよ」
 たまらず頭を抱え込む哲哉。


「苦労が絶えんな」
 大澤が笑いを噛みつぶしながら声をかけてくると、哲哉は苦笑でこたえた。

 八雲の変化球嫌いは大澤も知るところであり、直球一辺倒の投球で何処まで通用するのか、彼自身も疑問視する処であった。


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