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僕とご主人様の物語6

[376]  矢口 沙緒  2010-04-10投稿



ビュービューはいつも彼女の下に来ては、彼女の事を見上げています。
きっと彼女の空中に投げ出された足が、そしてそのヒラヒラとしたドレスが、気になって仕方がないのだと思います。
でも、いくら猫でも3メートルは高すぎるのでしょう。
だからいつもビュービューは、下から見上げているのでしょう。
でも、彼女はビュービューが怖いのです。
もし何かの気まぐれでビュービューが彼女に飛び付こうとしたら、そしてビュービューの爪の先が、ほんの少しでも彼女の足に引っ掛かったら…
そう思うと、彼女は震えが止まらないのです。
彼女は自分が落ちる事を想像すると、毎日が不安でした。
そんなある日、彼女の不安が思わぬ形で的中する時が来たのです。
その日はビュービューも足元に来ていなかったので、彼女は少し安心していました。
でも、それは突然起こりました。
急にガタガタとお屋敷中が揺れ始めたのです。
地震です!
彼女の体は左右に大きく揺らされ、そして、あっ!と思った時には、彼女の体は空中に投げ出されていました。
彼女はその陶器製のちょっと重い頭を下にして、真っ逆さまに床に向かって落下していきました。
もうダメ!
彼女がそう思って諦めかけた時、どこからともなくビュービューが現れ、彼女の下に滑り込んできました。
間一髪のところで彼女はビュービューの、そのペルシャ猫特有のふんわりとした毛の上に落ちました。
ビュービューは、
ウニャッ!
と潰れたような声で短く鳴きました。
ちょっと痛かったのでしょう。
そして彼女はビュービューの背中から床に、コトンと小さな音をたてて落ちました。
彼女はビュービューのお陰で、まったくの無傷でした。
そして彼女は初めて分かったのです。
ビュービューは彼女が落ちるのを心配して、毎日見てくれていたのだと。



…そして、その小さなビスクドールは、また同じ棚に同じ格好で飾られました。
でも、もう以前のように臆病ではなくなりました。
なぜなら、今日もまたビュービューが見守ってくれているからです。
めでたし、めでたし。
さぁ、そろそろ寝ようかね」
はい、ご主人様。
今夜はとっても素敵なお話を、聞かせていただきました。
僕もご主人様をいつでも守れるように頑張りたいと思います。
では、おやすみなさい、ご主人様。



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