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僕とご主人様の物語9

[370]  矢口 沙緒  2010-04-11投稿



「うっそ〜!
まさか忘れたんじゃないでしょうね。
私よ私、桃香よ!
西野桃香!」
にしの…ももか…?
誰だったかなぁ…
確かに覚えはあるけど、思い出せない。
「なんかヒントはないんですか?」
「ヒント?
クイズ番組じゃないし」
「でも、なにか思い出すきっかけみたいな…」
「じゃあね、この先にバス停があるでしょ。
そう、あの屋根の付いたベンチのあるバス停。
あのベンチで私と彼は初めて出会ったの。
雨の日にね。
思い出のベンチよ。
あのバス停まで行って思い出せなかったら、もう私、キッパリ諦めるわ」
「この先のバス停ですよね」
そう言ってその方向を指差し、彼女を振り返ったら、やっぱり消えていた。
二人に言われた事を考えながら、とぼとぼとバス停に向かった。
名前に聞き覚えはある。
顔はハッキリしない。
貝殻の指輪。
『ポエムっち』で待つ彼女。
そしてプロポーズに行こうとしている彼。
自分が二人の運命を決める。
しかも、なぜか二人とも半袖。
バス停に到着し、ベンチに座ってみる。
「そしてここが、二人が初めて出会った、思い出のベンチか…」
思い出の…
あれ?
…あれ、あれ?
ちょっと待てよ?
…あれ?もしかして…
そ、そうだ!間違いない!
すっかり忘れてた!
彼は急ぎ足で実家に向かった。

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