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僕とご主人様の物語11

[368]  矢口 沙緒  2010-04-11投稿



今日は夜になって、急に風が強くなってきました。
時折ブルーのシートが、バタバタと大きな音をたてて揺れます。
今夜のお仕事、どうするのかなぁ…
気になってご主人様を見たら、
あれ?
ご主人様、あまり顔色がよくないですよ。
そういえば今朝から、ちょっと元気がなかったなぁ…
大丈夫かなぁ、風邪でもひいたのかなぁ…
もうお仕事に行く時間は、とっくに過ぎているのに、まだ横になってるし…
あっ、
ご主人様が起き上がりました。
わん!
大丈夫ですか、ご主人様!
「おやおや、私の事を心配してくれるのかい。
ありがとうね。
大丈夫だよ。
一晩寝れば、また元気になれるよ。
でも今夜はこんなに風が強いから、お仕事はお休みにしましょうね。
じゃ、お話をしましょうかね。
今夜はどんなお話をしようかしら。
今夜は…」
そこまで言って、急にご主人様は胸を手で押さえて下を向き、しばらくじっとしていました。
本当に大丈夫ですか?
「ははは…大丈夫よ」
ご主人様は顔を上げ、ちょっと笑いました。
「あらあら、そんな目をして。
平気よ。
なんともないわよ。
それより、お話をしましょうね。
今夜はね…
…そう、今夜はこんなお話を聞いてちょうだいね。
大きなお屋敷に住んでいた、一人の女の子のお話よ…



最終話
   最後の物語


昔々ある所に、とても大きなお屋敷があったのよ。
そのお屋敷には、主人とその奥様、そして一人娘が住んでいたのよ。
そのお屋敷の主人はね、とても大きな会社の社長さんだったの。
一人娘だったその女の子は、すごく大切に育てられて、何不自由する事なく、毎日楽しく暮らしていたの。
彼女の周りには、いつも大勢の人が集まって、そして彼女の事をみんなが大事にしてくれていたのよ。
彼女は小さい時から物語を作るのが大好きで、いつも頭の中でたくさんの物語を作って遊んでいたの。
そんな彼女も年頃になってね。
婚約もしたのよ。
でも何の前触れもなく、突然その日は訪れたの。
とっても悲しい日。
すべてが変わった日。その日、お屋敷の主人と奥様が、車の事故で二人とも亡くなってしまったの…」
そこまで話すと、ご主人様は少し黙ってしまいました。
あれ?
ご主人様、なんか目が濡れていますよ。

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