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僕とご主人様の物語12

[364]  矢口 沙緒  2010-04-11投稿



「二人とも事故で亡くなってしまったのよ…そう、彼女一人を残してね。
そして社長さんを失った会社は、まるで坂道を転がり落ちるように、どんどんとダメになっていってしまったの。
それと同時に、彼女の周りにあんなに大勢いた人達も、次々と彼女から離れていったの。
そして彼女がすべての財産をなくす頃には、婚約者も去り、彼女の周りには誰もいなくなってしまったのよ。
彼女は両親も、財産も、お屋敷も、そして友達も、すべてを失ってひとりぼっちになってしまったの。
それ以来彼女は、世の中の片隅のずっと底のほうで、たった一人で生きてきたの。
何年も、何十年もずっとね。
その間に彼女の心は、どんどんネジ曲がっていってしまったのよ。
世の中を恨み、人を憎み、目に見えるすべての物が嫌いになったの。
そして、そんな自分自身も嫌いだったのよ。
でもある日、彼女に友達ができたの。
人間の友達ではないけれども、彼女にとってはとても大事な友達なのよ。
その友達は、とても賢く勇敢で優しくて、いつも彼女のそばにいてくれて、いつも彼女の話を聞いてくれて、いつも彼女を守ってくれるの。
その友達ができてから、なぜか彼女の中にあった暗い気持ちが、まるで蒸発するように少しずつ抜けていったの。
そしてそれと入れ代わるように、優しい気持ちが芽生え、それがだんだんと大きくなっていくのが、彼女自身にも分かったの。
それと同時に、周りのいろいろな物が、明るく美しく見えるようになっていったのよ。
それからは、毎日が楽しく、毎日が素敵で…
そうなの、彼女は幸せになれたのよ。

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