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ワンダーパート 1

[672]  やいち  2010-04-17投稿
人生には様々な分岐があるらしい。
ただ、たいていは分岐で大きく人生の変わる人はいない。
そんなのはタレントとか、社長みたいに、その道において有名な人くらいだ。
平凡な人生にはそんなに大きな刺激はない。
僕もまた、そんな平凡な人生を歩んでいくはずだった。

ザァーッ。

無機質な雨音が鳴り響くそんな中で、僕はただただ雨に打たれる。
無表情にただ前を見つめて座っている。

この時、僕は初めて刺激なんかいらないと思った。
平凡な人生でいい。
だから今の状況をなんとかしてくれ。

突然、自分に降っていた雨が止まった。
ぼんやりと前を見つめていた自分の視界には、知らないうちに人が傘をさして立っていた。
黒なのか紺なのか、雨のせいでハッキリとしないあいまいな色のコートをきた男だ。

そのコートの男を僕は見上げた。
きっとこの人には抜け殻のように写っているんだろう。

コートの男の口が開く。

「君もまた、歯車がずれてしまったんだね。」
コートの男の声と目は、まるでぼくのことを悟っているかのようだった。
この人には本当に僕のことがわかっている。
そう思えてならなかった。
どうしてこうなったんだろう?
僕はただ、平凡な人生に刺激があればいいと思っていただけなのに…。
「僕は…」
「?」
「僕は、少しの刺激でよかったのに。それなのに、なんでなんだよ…」
「頼むよ!!刺激なんかいらない!!だから…。あの平凡な人生を返してくれよ…。」
泣き崩れている自分がそこにはある。
情けないかもしれない。
でも本当に返してほしいんだ。

またコートの男の口が開く。
「時間は不可逆だ。戻ることなんか誰にも出来ないんだ。それに、ずれた歯車は決してすぐには戻れない。それでも、君が歩を進めるなら、ついておいで。僕の管理するアパートには君と同じように、歯車がずれた人たちがいるから。」

この時、僕の人生は変異した。

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