夢十夜 〜第六夜〜
こんな夢を見た。
古い時代である。
どの位昔なのかはわからないが、蝋燭を灯した薄暗い板張りの部屋で、一段高い上座に胡座をかいている男は着物を着ている。
揺らめく淡い光に照らされるその男は、髭を厳つく生やし、髪をざんばらにした逞しい男だった。
山賊の頭のような風体だと思った。実際にそうなのかもしれぬ。
男の前にかしづいた自分は女である。
男は獅子のような目で私を見る。
私は一体何か?
売られてきた女か?
奪われてきた女か?
それともそのどちらでもないのか?
男は盃を私に向ける。
私は黙って酒をそこに注ぐ。
男は酒を飲む。
私も男を見た。
日焼けした、深い皺の刻まれた顔だった。
その顔がつまらなそうに言う。
「特に美しいわけでもない。
愛想笑いひとつしない。つまらん女だの。」
そんなことは私が一番良くわかっている。
「おい、お前、俺が憎いか?」
可笑しそう言う男の顔を見た途端、私は思い出した。
この男は私の親と夫を無惨に殺した仇なのだ。
そうして私を愛でるわけでもないのに側に置く。
私が苦しむのを近くで眺めるためだ。
「憎い。」
掠れる声をようやく絞り出し、私は答えた。
それを聞いて男は満足げに笑った。
「俺を殺したいか?」
男の実に可笑しそうな顔を見て、私の中で獣のような殺意が滅茶苦茶に膨れ上がった。
私は持っていた瓢を放り投げ、鷺のように高く長く叫びながら男の首に掴みかかった。
男と私は縺れ合いながら倒れ伏す。
私は喚きながら渾身の力で男の首に爪を立てるが、男はそれをものともせずに心から楽しそうな笑い声をあげた。
「良いぞ、良いぞ」
男は私の髪に触れ、愛おしむように軽く梳いた。
そこで目が覚めた。
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