alone 58=つまらない=
「私は自神宗教祖の男の息子として生まれた。
私が生まれた頃は まだ戦いは今ほど激化してはいなかった…。
私の父が争いを好まなかったからだ。
私の父は皆神の教祖と会談をして、長きにわたる戦いを終わらせようと決意した…」
そこまで言い、フウと溜め息をついてから理一は続けた。
「だがその決意は無駄に終わった…。
私が父を殺したからだ」
「!? …何故…!?」
「父が気にくわなかったからだ」
水鶴の問いに、理一は即答した。水鶴の表情が曇る。
「相容れぬ宗教同士が、互いに平和をうたい、一時的に争いがなくなったとしよう。
だがそれは ほんの一瞬だろう?
必ずや どこかで衝突は起きるはずなのだ。
そんな目に見えていることを気にせずに、会談をするなどと言う父がこの上なく憎たらしくてね。
殺したんだよ。
……それが若い頃の私の考えだ」
「若い頃の…?
では今の考えは…?」
水鶴が聞くと、理一は不敵に笑った。
「フフ。今、今か…」
くっくっと喉を鳴らした後、理一は答えた。
「楽しいからだ」
「え…?」
予想外の答えに、水鶴だけでなく、その会話を聞いていた全ての人々が固まった。
「教祖の為、教祖の為と戯言のように繰り返し、死んでゆく兵を見ていくのが実に滑稽だったよ。
柊の息子は違ったがね」
理一は また笑う。
いつかお前もそう思う妃が来る、と言いながら。
「…んな…まらないことで…」
「うん?」
「……そんなつまらないことで…。柊は死んだのですか」
“つまらない”というワードに 理一はわずかな反応を見せたが、笑みは絶やさぬまま言った。
「あぁ、そうだ」
「父上…あなたは私には救えません。救えないほど、常軌から逸した考えなのですから…!!」
水鶴は拳を握りしめ、ぶるぶると震わせた。
「しかし皆神と戦っては くれるのだろう?
どうせ行くあての無い、独りきりになったのだからな…?
誰についても構うまい」
「…ええ」
水鶴は踵を返した。
歩きながら、水鶴は呟いた。
あぁ独りきり。
味方はいない。
仲間はいない。
友達はいない。
あぁ。
独りきり。
独りきり。
独りきり。
寂しさで胸が押し潰されそうだった。
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