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ベースボール・ラプソディ No.30

[541]  水無月密  2010-04-29投稿
「真壁君がくる少し前からいましたよ」
 穏やかな笑顔でこたえる大原。

 八雲はそれを不思議そうに見つめていた。
 野球に興味などなさそうなこの老教諭が、何故ここにいるのかが分からなかったからだが、すぐにその理由を思い出し、ポンッと手を叩いた。

「あっ、そうか、大原先生に野球部の顧問を頼んだったっけ。
 あまりにも顔ださないもんだから、すっかり忘れてたなぁ」
 カラカラ笑う八雲。
 その八雲の頭頂部を、大澤の鉄槌が打ち付けた。

「先生にたいして失礼だろうがっ!」
 手加減をした大澤の一撃だったが、それでも八雲はたまらずに頭を抱えてうずくまっていた。

「それにだ、お前達は気付いてなかったみたいだが、大原先生は毎日練習を見に来てくれていたんだぞ」
 大澤の言葉に、哲哉と八雲は驚いて大原をみた。

「俺も始めは気付かなかったが、俺達が練習に集中できるように、そっと見ていてくれたんだ。
 お前達も少しは先生の気遣いに感謝しろっ!」
 謝意を表す大澤に、大原は軽くかぶりを振った。

「私が顔を出したところで、君達に助言できることは何一つありませんからね。
 なにより、生き生きと練習している君達の邪魔は、したくなかっただけですよ」
 大原の奥床しさに、八雲達は心和むのを感じていた。

 だが、八雲達はふと思う。
 なぜ今日に限って、声をかけてきたのかと。
 それを察してか、大原からその理由を語りだした。

「結城君の事が少々気になりましてね。
 あまり睡眠がとれてないようですが、大丈夫ですか?」
 八雲と大澤も同じように哲哉を見た。

 大原に指摘されるまでもなく、ここ二三日の哲哉の体調低下は、目の下の隈が顕著にしていた。
 彼が寝る間を惜しみ、予選を勝ち上がるための算段をしていることを、仲間達は均しく察していた。


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