閉ざされた扉
男は山道を歩いていた。
茶色い鞄を手に、一丁の猟銃を肩に提げて。
…といっても、猟をしにきたわけではない。
決着につけに来たのだ。
この先の山小屋に潜む殺人鬼。
俗にいう『首裂きウィニー』を捕らえるために。
もう何人もの村人が、彼の餌食になっていた。
村の村長も、そして男の愛する婚約者も…。
「まっていろよ、殺人鬼め。」
焦る気持ちを遮るように、足元に絡まる蔦が邪魔をする。
忌々しげにそれを振り払いながら、男はたどり着いた山小屋の扉を開けた。
…カビくさい匂いが鼻をつく。
暗やみに目を凝らした男が、そこに見たもの。
それは鏡に映る、男自身だった。
「え?。」
よく見れば、鞄だと思っていたものは人間の生首であり、猟銃もまたその手足である。
「これは、いったい…。」
そこで男は忘れていた過去を思いだした。
婚約者を凌辱した村人を皆殺しにしたこと、
首裂きウィニーと呼ばれ、入れられた精神病棟から脱走したこと。
そして自分でも時折、抑えのきかない鮮血への衝動に駆られること。
…すべてを思いだした男は、薄ら笑いを浮かべながら、その扉を音もなく閉ざした。
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