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閉ざされた扉

[883]  三毛乱次郎  2010-05-17投稿

男は山道を歩いていた。

茶色い鞄を手に、一丁の猟銃を肩に提げて。

…といっても、猟をしにきたわけではない。

決着につけに来たのだ。

この先の山小屋に潜む殺人鬼。

俗にいう『首裂きウィニー』を捕らえるために。

もう何人もの村人が、彼の餌食になっていた。

村の村長も、そして男の愛する婚約者も…。

「まっていろよ、殺人鬼め。」

焦る気持ちを遮るように、足元に絡まる蔦が邪魔をする。

忌々しげにそれを振り払いながら、男はたどり着いた山小屋の扉を開けた。

…カビくさい匂いが鼻をつく。

暗やみに目を凝らした男が、そこに見たもの。

それは鏡に映る、男自身だった。

「え?。」

よく見れば、鞄だと思っていたものは人間の生首であり、猟銃もまたその手足である。

「これは、いったい…。」

そこで男は忘れていた過去を思いだした。

婚約者を凌辱した村人を皆殺しにしたこと、
首裂きウィニーと呼ばれ、入れられた精神病棟から脱走したこと。

そして自分でも時折、抑えのきかない鮮血への衝動に駆られること。

…すべてを思いだした男は、薄ら笑いを浮かべながら、その扉を音もなく閉ざした。

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