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ミットに向かって-9-

[667]  沢村エイジ  2010-05-21投稿
大きな弧を描いてスタンドに入ったボールは、刻士舘には歓喜を、昂南には絶望を与えていった。

光は次のバッターを押さえたが、昂南が点を取ることは出来なかった。

光は誰とも顔を合わせずに球場を出た。皆の視線が痛かった。早く責任から逃げ出したかった。

「おい待てよ、光!これからミーティングが始まるぞ」後ろから武司に呼ばれても返事をせず、背を向けたままだ。

「誰もお前の事を責めちゃいないぜ?無駄に責任感じるなよ」
それでも振り返ろうとしない。

「いい加減、なんか言えよ!」武司の大きな右手が光の右肩を掴んで、こちら側に向けようとする。

「放せよ!」
光が突然声を出したせいで武司は怯んだ。光は武司を睨みつけながら叫ぶ。

「先輩は高校での3年間を俺に託したんだよ!俺を信じて託してくれたんだよ!・・・なのに・・・負けたんだ。どんな顔して謝れってんだよ」喋り終わる頃には目を落としていた。

「・・・・託されたんだろ」
「え?」
「先輩達から託されたんだろ!なんで逃げんだよ!負けたら逃げんのか!?合わせる顔が無いってか!?ふざけんな!!責任から逃げてるだけだろ!!」
光は言い返せなかった。武司の言っていることが間違ってないからだ。

「先、行くからな。早くこないとミーティングが始まっちまうぞ」武司はそう言って歩き始めた。

光は球場脇の広場に一人だけ取り残されていた。

―どうすればいいんだ?―心の中で自問自答していた。

―まず・・・・謝ろう。それからだ―\r
走り出す。不思議と迷いはない。むしろ吹っ切れていた。はるか向こうに真野先輩の背中が見えた。

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