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子供のセカイ。171

[432]  アンヌ  2010-05-21投稿
機械的な口調で紡ぎ出された名前に、覇王は脳が煮えるような激しい怒りを感じた。
なぜこうなることをもっと早くに予期しておかなかったのか。ラディスパークに潜む前支配者が企んでいることなど、一つしかないというのに。
舞子は呆然とアリアを見ている。
「ミルバの分身にやられたってこと……?」
ミルバは三年前、舞子の手によって処刑された。正確には、そんな残酷な事はできない、と泣き言を言い出した舞子に代わって、覇王がミルバを殺したのだ。
そしてその時、彼はあり得ない方法で五つに分裂し、一つは捕まえ、二つ消したが、残る二つはラディスパークへと逃げおおせていた。
その内の一つが今頃現れ、わざわざ夜羽部隊を襲撃した、というのが、舞子には奇異なことのように思えた。
覇王は、困惑した眼差しを向けてくる舞子の顔を見ないようにしながら、必死に冷静な声を出した。
「奴があちら側の味方についたということか。それで、美香と耕太はどうなった?」
「取り逃がしました。ミルバ殲滅には最高命令が出ていたので、そちらを優先したのです。」
「……では、命令通り、確実にミルバを消したのだろうな?」
「はい。こちらの被害は甚大ですが、私がこの手で息の根を止めました。」
「そうか。……いや、しかしまだ奴の分身は二つ残っている。片方は城にいるが、野放しにしている方が、美香たちに力を貸している可能性が高いな。」
「捜しますか?」
「ああ。負傷者は皆、舞子の元へ連れてきてくれ。それから次の策を練ろう。」
舞子は脱け殻のように、膝をぺたんとついて座り込んだまま、会話を交わす二人を遠くから見ているような心地がしていた。二人は自分の想像で、自分のために存在しているはずだ。それなのに、彼らは勝手に一人歩きを始め、おかしな方向へと走り出し、ついには舞子の手が届かないところへ行ってしまおうとしている。

『あなたは他の子とは違うから、簡単に“子供のセカイ”とつながっちゃいけないって、何度言ったらわかるの!?』

不意に耳の裏に蘇る、叩きつけるような姉の声。
美香は、舞子の想像は強力すぎて、だからおかしくなるのだと、いつの間にか壊れてしまうのだと、そう言っていた。
そして、そんな姉の年に似合わない大人びた顔を思い出すのと同時に、舞子の心にどうしようもない嫌な感情が沸き上がった。

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