夢十夜 〜第七夜〜
こんな夢を見た。
私は絵描きであった。
何年も何年も一つの絵を描いている。
この世界のあらゆる不幸と災厄が描かれた絵だ。
私は白いキャンパスに油絵の具を塗っていく。
描いても描いても絵はできあがらない。
キャンパスはどんどん大きなものになってゆく。
不思議なことに私が絵に描いた不幸は全て現実となった。
戦場を描けば戦争が起こった。
水に流される家々をかけば洪水が起こった。
だが私は描くことをやめられない。
なんでか皆がその不吉な絵の完成を望んでいた。
いつしか私の描く災厄で世界は荒廃した。私は満身創痍になりながら荒野で絵を書き続ける。キャンパスは地面を覆わんとするぐらい大きなものになっていた。
空は青く晴れ渡たり、地平線と接している。
燦々と太陽の光が降り注ぐ。
私は地に倒れ伏し、死んでゆく孤独な少女の姿を描いていた。
額から汗が後から後から流れ、手がぶるぶると震えた。
この少女を何とか救いたいと思ったが、筆を止めることは考えられなかった。
誰かが私の描く手を止めた。
白い服を着た、壮年の男だった。
男は青い、力のある目で私を見て言った。
「君はもう描かなくていいんだ。もう悲しい絵を描くことはない。」
男は優しく私の手を握った。
「さあ、この女の子を助けてあげよう。」
頭の中で水滴がぽたりと水面に落ちる音が響いた。
私は泣いていた。
そこで目が覚めた。
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