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航宙機動部隊第四章・49

[1417]  まっかつ改  2010-05-27投稿
《今更思い残す事もないが、敢えて言えば次なる決戦を見届けて起きたかった気もするな》
テロンの脳髄は淡々とした口調でそう述べた。
《だが別段惜しむつもりもない―結果はもう見えているでな》
すると、《彼》の入っている容器の下から、プロペラ状の刃物がゆっくりとせり上がって来た。
《さらばだエタン》
これが、三代皇帝の残した最後の言葉だった。
定められた日時通りに勢い良く回り出したプロペラは、かつてはこの帝国の最高指導者だった男の頭脳を遠慮会釈なく切り裂きながらシェイクし―ものの数秒でピンクのシャーベットと化したそれは、透明の培養液と混じり会って少しずつ色素を薄くしながら拡散を始めた。
そして、更に十秒後―薄桃色の液体は、詮を開けられた複数のパイプを伝って十年以上住居代わりに使っていた容器からトイレットみたいに流し出された。
その行く先は他の脳髄の待つ幾多の容器達。
彼はこうして今度はこの生体頭脳群を養う側に回るのだ。
その壮絶だが呆気ない光景を、エタンは敬礼しながら厳粛な面持ちで見送った。
ここに、三代皇帝テロンは本当の意味で崩御した。
かつて戦士としての生き方にこだわり、肉体の衰えが否定出来なくなった時、敵を巻き込んでの自爆を選んだ初代皇帝クークの様に、彼テロンは自分が生体コンピューターとして耐用年数が尽きる頃を正確に見計らって、自己処分する様に予め全ての手筈を整えて置いたのだ。
どこまでも冷静で冷徹で、常に合理性を追求した男の生きざまであり死にざまであった。
『………』
感慨深げに先代の流れ去った空の容器をしばらく見つめていたエタンは、やがて敬礼をとくと乾いた足音のみを残してゆっくりとその場から離れて行く。
彼はこれから歴史を創り上げて行く側の人間であり、歴史を残して来た側への感傷に何時までも浸っている余裕は残されていなかったのである。

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