虫たち、梅雨(2)
6月の夜に、雨が降る。
コンクリートの路上が少しずつ濡れ、数秒後に我慢しかねたかのように雨が激しくなる。
コンビニで唐揚げの代わりに無色透明のビニール傘を買い、自転車を押しながら家に帰る。
僕は、死ぬのが怖い。
所詮は人の子、親や友人の悲しむ姿なんて見たくはない。
僕は、誰かの悲しみを盾にして自分自身を守りたいだけなのかもしれない。
でもそうやって他人の悲しみを言い訳にしているうちは、光の見える場所にすら僕は到達できないだろう。
「お前には聞こえないのかい?泣き叫ぶ人々の声がさぁ。」
誰かの悲しみと向き合うのが怖い、自分の悲しみと向き合うのが怖い…。
「傍観者でいることは楽かもしれないが、それでは何も変わらねえよ。」
そもそも人間の遺伝子に光に向かって走る、なんて情報は…プログラミングされていないじゃないか!
「また言い訳するのかい?君は人間の生物としての遺伝子すら言い訳にしてしまう。そこまでいくと才能と言えるね。」
もうそろそろ家に着く。
誰もいない空っぽのアパートの一室に、逃げ込む。
電気は点さず、布団に横になって天井を見つめる。
虫の息という慣用句を作った古人は、馬鹿じゃないだろうか。
虫の方が人間よりも、少なくとも僕よりは計り知れない程のエネルギーを秘めているのに。
今の僕は真剣に、そう思うのだ。
憂鬱な梅雨の季節。
僕は今年の6月、何をして過ごせばいいのだろう。
「光なんて、どうせ幻想に過ぎないんだよ。」
光に向かって飛ぶ虫の姿が、今後の人生も夢見がちな僕を苦しめ続けるだろう。
ああ…、そんな事を考えていると。
虫ずが走ります。
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