チンゲンサイ。<44>
『さて。ここでみなさんに、ご紹介しておきます。
先ほどから、ここにいらっしゃる方は、山田ユウ君の御両親です。
これから、お母様の方から、みなさんにお話があるそうなので、みんなきちんと聞きましょう。』
不意に本橋が生徒達に向かって言い放つ。
そして、
その瞬間、教室全体から、ドッと笑いが沸き上がった。
その笑いが、一体何を意味するものなのかは、俺には分からなかったが、
その意味は考えるまでもなく、
今の若者の心の闇を、そのまま反映しているだけの、
さげすみの笑いなのだろう。
約80個の、その灰色に曇った瞳は、
まるで、俺達を嘲笑しているかの様に、
冷たく、太陽の光を反射していた。
俺の心配をよそに、その約80個の灰色の瞳に向かって、
ついにユキエが口を開いた。
『山田ユウの母です。
いつも、うちの息子が、みなさまに大変お世話になり、ありがとうございます。』
ユキエの第一声に、もちろん、生徒達の反応などなかった。
本橋は教壇の横に立ち、
俺は、教壇に立つユキエの後方で、その様子を見守る事にした。
『今日、みなさまに、ひとつだけ聞いて頂きたい事がありまして、
この場に立たせて頂いている次第でございます。』
ユキエのやつ――
こんな、じょうぜつだったのか?!
選挙演説じゃないのだから、要点をうまくまとめて話せよ!!
生徒達の視線が冷たく突き刺さる――
俺も口が上手い訳ではないが、
とにかく妻の事が心配で、無事に話し終える事だけを、心の中で願っていた。
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