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欲望という名のゲーム?8

[397]  矢口 沙緒  2010-06-23投稿



「いくらある」
明彦がぶしつけに聞いた。
「兄貴の遺した財産は、いったいいくらあるんだ」
「動産、不動産もろもろを全て合わせますと、約ニ百八十億円というところです。
「ニ百八十…」
深雪が言葉を呑んだ。
その金額は、誰の想像をも大きく上回っていた。
「滞在に異論はございませんね」
鹿島が澄まして言う。
勿論、異議を唱える者はいない。
「何も聞いてなかったから、着替えがないわ」
孝子がぽつりと言った。
鹿島は大丈夫というようにうなづく。
「着替え、その他必要と思われる物は、各部屋に全て用意してございます。
もし足りない物がありましたら、なんなりとお申し付けください。
すぐに用意するようにいたします。
滞在期間中は決して不自由をおかけする事はないでしょう。
生前、雅則様からも強くそう言いつかっておりますので」
「あんたに俺の洋服のサイズが分かるのか?」
明彦が挑戦的に言う。
「全て事前に調べてあります。
サイズと、そして好みも」
「下着の好みも?」
深雪が面白半分に聞いたが、予想に反して鹿島は平然とうなづいた。
「あの…
遺産相続についてですが…」
喜久雄が言いかけたのを、鹿島は手で制した。
「その事につきましては、今晩夕食の後に話し合う事になります。
それまでは部屋でゆっくりとお休みください」
鹿島はそう言ってから、右側にあるドアを手で示した。
「ここが食堂になっています。
夕食は六時からです。
服装につきましては、堅苦しい事は申しません。
ではその席で、またお会いする事にいたしましょう」
鹿島はそれだけ言うと深く頭を下げ、食堂のドアを開け中に入り、そしてドアを閉めた。
その時ドアの内側に、黒い物が下がっているのがチラリと見えた。
この屋敷の入り口のドアに掛かっていたのと同じ物だった。
雅則の笑っている顔を模写した金属製のあれであった。
ホールに残された五人は、無言のまま中央の階段を上がった。
そして、三人は右へ、孝子だけが左へと別れた。


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