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ベースボール・ラプソディ No.38

[587]  水無月密  2010-06-23投稿
 内外に投げ分け、ツーストライクまでは簡単にとれた。
 だが石塚は、最後の一つを容易にはとらせてはくれない。

 元々石塚は空振りの少ない選手であり、今試合においても未だ一つの空振りもしていなかった。
 さらにいえば、石塚自身が橘華バッテリとの相性の良さを感じていた。
 彼はこの試合、配球コースの読みがことごとく当たるのである。

 その石塚が厄介がったのは、八雲の球威と制球力だった。
 重い球を微妙に外してコーナーに投げ分けられては、打っても凡打にしかならない。
 かといって見送れば、際どいコースだけにストライクをとられかねないのである。

 際どいコースはカットして凌ぎ、あまい球をひたすら待つ石塚。
 そしてフルカウントでむかえた八球目、球数がかさむのを嫌った哲哉は三振をすて、打たせてとる戦術に切り替える。

 哲哉のサインに小さく頷き、振りかぶる八雲。
 要求は真ん中低め、九速の球だった。

 八雲の投球フォームは右のオーバースローだが、右膝が地につくほどに上体をしずめてリリースするため、ローボールを投げれば地を這うように白球が突き進む。

 その百四十二キロの直球がホームベースに差し掛かった時、石塚は迷わず打ちにいった。
 甘い球ではなかったが、哲哉ならホームランになりにくい低めの球で勝負にくると読んでいた彼は、好機であると判断したからだ。

 低めにコントロールされた重い球を、石塚は巧みにバットで捕らえて弾き返した。
 打球は八雲の足元をぬけ、センター前へと駆け抜ける。
 が、この打球に遊撃手の水谷が飛びついた。

 すんでの所で捕球した水谷は、軽やかな身のこなしで一塁へと送球する。
 そして、大澤の捕球と同時に塁審が右手をあげ、アウトをコールした。


 ファインプレーに沸く観客席。
 一塁を駆け抜けた石塚は、己の不運に天を仰いだ。
 今のプレー、少しでも打球が速ければぬけていただろうし、少しでも遅ければ彼はセーフになっていたのだから。


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