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かけがえのないもの 5

[465]  デフレーター  2010-06-23投稿
出発の前夜、やはり瑠奈は隼人を応援する言葉をかけた。

「一人暮らし大変そうだけど…お兄ちゃんなら大丈夫だよね。頑張ってね!」

兄の新しい生活を祝福する言葉。優しい笑顔…

隼人は新生活に若干の不安があったが、瑠奈の言葉と笑顔が大きな支えになると感じた。

しかし…隼人は見てしまった。

廊下の窓から夜空を眺めながら、瑠奈が泣いているのを…

「お兄ちゃん…嫌だよ…ずっと一緒だと思ってたのに…瑠奈のこと置いてかないでよ…」

両親よりも多くの時間を隼人と共有してきた瑠奈にとって、

明日から隼人が側にいなくなるという事実は堪え難いほど悲しく、つらいことだった。

隼人は心臓にナイフが刺さったような痛みを覚えた。

抱きしめてあげたかった。「泣かないで」と言ってあげたかった。

だがそのようなことをしてしまうと、瑠奈をさらに悲しませてしまうだろう。

別れをさらに実感させてしまうから…

隼人は唇を噛み締めながら瑠奈の近くから去り、堪えていた涙をそっと流した。


出発の日、家族全員が隼人を見送ってくれた。

「隼人。もっと逞しくなって帰って来いよ。」

「体には気をつけて、頑張ってね。」

父と母が励ましてくれる。

「うん。父さん、母さん、ありがとう。苦労ばっかかけて、ごめん…」

「謝るなよ。父さんこそ忙しくてなかなか構ってやれなくて…すまなかった。」

「母さんも…一番側にいてあげなきゃならないときに、一緒にいてあげられなくてごめんね…」

両親の謝る姿に、隼人は少々落ち着かない気分だった。

それでも、常に子供達のことを気にかけてくれていたんだ、と思うと嬉しかった。

「いいんだよ。父さんにも母さんにもすごく感謝してる。今まで育ててくれて、ありがとう。」

隼人は笑った。両親も安堵の笑みを浮かべる。

「お兄ちゃん…」

瑠奈はやはり悲しげな表情で隼人を見上げる。

「瑠奈…父さんと母さんに、迷惑かけないようにね。」

「…うん。お兄ちゃん…また…帰ってきてね。」

「たまには、遊びに来なよ。」

隼人はそう言うと、新しい住まいの合い鍵を瑠奈に手渡した。


続く

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