濡れる、濡れる、濡れる
合鍵も返した。
歯ブラシは一人ぼっちに
なった。
永遠に笑う二人の写真は
紙吹雪になって
夜空に散った。
僕は、もう一人だと
実感するしかなくなった
はずなのに…。
君は残していった、
一本の傘。
別に可愛いデザインと
いう事もなくて、
君らしいシンプルで
味気ないデザインの傘。
僕は別段それを
気にする事もなく。
そして、梅雨が来た。
濡れるのが嫌いな僕は、
何気なく君が残した
傘ででかけた。
別に未練があるって
訳じゃない。
本当に濡れたくなくて。
でも僕の傘は、
どこかに置き忘れてきて。
心も、置き忘れて…
なんて野暮な事を
言うつもりなんてなくて。
ただ、近所のコンビニへ
煙草を買いに行くだけ。
でも。
濡れる。
濡れる。
肩が、濡れる。
そうか、この傘は
女の子サイズ。
そうか、この傘は、
君の傘。
君は、こんな傘に
入ってしまうくらい
小さかったんだね。
か細くて、小さかった
君が残した傘は、
僕に雨を避けさせて
くれない。
濡れる。
濡れる。
頬が、濡れる。
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