欲望という名のゲーム?10
深雪は三号室のホームバーの椅子に腰掛け、ブランデーを傾けながら、ドアに下がっている黒い金属の塊を見ていた。
冷たい金属が笑いかけているようで、あまり良い気持ちはしない。
そう言えば、確かこれと同じ物を食堂のドアの内側でも見たような気がした。
深雪はキャメルを指に取り、火を着けた。
カウンターの隅には、彼女の指定銘柄であるキャメルのロングサイズが3カートン、初めから用意されていた。
鹿島が自分達の事を事前に調べていたことは間違いない。
その事も彼女は気に入らなかった。
深雪が唯一気に入っているのは、ニ百八十億という夢のような金額だけだった。
四号室の孝子は、ホームバーの中にある冷蔵庫の冷凍室を覗いていた。
その中にワン・パイント入りの色々なアイスクリームがぎっしり並んでいるのを確認してニコリとした。
「本当によく調べてあるわね」
適当な皿にバニラアイスクリームを少し取り、洋酒棚からコーヒーリキュールのカルーアの黒い瓶を見付けて、それをアイスクリームの上に少し垂らす。
コーヒーの甘い香りが、ゆっくりと部屋の中に広がっていった。
「失礼して、勝手にいただくわね、お兄さん」
ドアに掛かった金属の笑い顔に、そう語りかけるように言った。
ソファーに座りアイスクリームを食べようとした時、窓の外で猫の鳴き声がした。
孝子は皿を持ったまま立ち上がり、窓の外を見下ろした。
庭に咲き乱れる花の中に、赤い首輪を着けた三毛猫の背中が見えた。
虫でも追い掛けているのか、夢中になって走り回っている。
「お兄さん、猫を飼ってたのか。
…やっぱり、淋しかったのかなぁ」
孝子は猫を目で追いながら、アイスクリームを口に運んだ。
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