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すくわれる女

[475]  デフレーター  2010-06-28投稿
私は救いを求めている。
この狭く苦しい世界を抜け出し
何不自由ない広い世界で
伸び伸びと生きていきたい。
この世界は狂っている。
この世界に住むものは
互いに群れて行動したかと思うと
急にその集団から誰かを爪はじきにする。
そして極限まで追い込まれると
殺しあいを始める。
こんな世界は、もうたくさんだ。
それでも、こんな世界に救いの手を差し延べてくれた人は
これまで数多く存在した。
しかし他の者たちは
救いの手が差し延べられると
皆慌てたように逃げ回る。
そんなにこの世界の居心地がいいのか

だが私とて、救ってくれるのは誰でもいい、と言うわけではない。
誤解を恐れずに言えば、私を本当に救えるのは、いわゆる富裕層と呼ばれる一部の権力者のみ。
これだから、なかなか救われないのだろうか…

そう考えながら過ごしていると、今日も救いの手を差し延べてくれる人が現れた。
見るからに高級そうなブランド服を身に纏った、子供連れの婦人。
彼女なら安心だ。これでやっと救われる。
私は差し延べられた救いの手に、そっと身を委ねた…

ふと気づくと、そこは今までよりも更に狭く苦しい世界。
少し進んだだけで鼻がぶつかりそうになる。

丸く、小さな鉢の中。

そう、私は金魚。
私にとっての救いは、狭く苦しい生け簀や鉢の世界のくびきを離れ、
誰にも邪魔されない広大な池で暮らすこと。
親切な救世主に見守られ、しがらみも、殺しあいもない、自由な世界で暮らすこと。
しかし、そのようなことは所詮夢物語だ。
金魚に生まれ、救いの手を差し延べられた者として、そのような暮らしができるのは、ほんの一握りの幸運な者のみ。
大半は私のように、より狭い世界に閉じ込められる。
救いを手にできるかどうかは、努力や優しさなどほとんど関係はない。
運がいいか悪いか。ただそれだけの違いなのだ。
世の中は全くもって不条理に満ちている。

しかし、この狭く苦しい鉢の世界も、慣れてしまえば居心地がいい。
決まった時間に食事にありつけるし、仲間同士傷つけ合うこともない。

ありとあらゆる者は
こうして自分が環境に順応することで
苦痛な世界を生きてきているのだと
私は今、実感している。



終わり

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