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子供のセカイ。180

[486]  アンヌ  2010-07-01投稿
その猫は昨日、「役立たず」だという理由で、治安部隊の若者達に存在を消されそうになった王子を助けるため、光の子供の力を使って耕太が生み出した想像物だった。
強力な猫の主人である、という位置付けで、王子はなんとか強制労働施設で働けるだけの力があることを認められ、消されずに済んだのだ。
それだけではない。猫は危機に陥った美香と耕太を救うため、敵方の監査員を捕まえ、その場に混乱を巻き起こして、捕まりそうになっていた二人を助けてくれた。
全長四メートルはある猫は、今にも首に結わえられた赤い紐を引きちぎってこちらに走って来そうな勢いだ。二人の治安部隊の青年が、舌打ちしながらそんな猫を力ずくで牽制している。
王子は自分から猫に近づくと、縛られた手をなんとか持ち上げ、猫の首の横を撫でてやった。途端に猫は大人しくなり、ゴロゴロと喉を鳴らし始め、巨大な顔を王子の体に擦り寄せた。
(それにしても、よく僕に懐くように作られてるなあ……。)
なんとなく耕太の腕前に感心して猫の体に寄りかかっていると、後ろから近寄ってきたルキに肩を小突かれた。
「いつまでそうやってる気だ?さっさと猫の紐を持って、こっちへ来い。」
「……わかったよ。」
王子は少しため息をつくと、猫の側にいた若者から紐を受け取った。軽く紐を引っ張ると、猫は壁や天井に体をすりながら、のそりと立ち上がる。
そのままルキに先導され、一行は再び歩き出した。
石造りの建物の通路は狭く、荒れ果てていた。床は凸凹が酷く、壁や天井も深くえぐられていたり、傷ついたりしている。
巨大な爪痕のようなものが真っ直ぐ廊下の壁を走っているのを見て、王子は背中がうすら寒くなった。
(ここにはどんな想像達がいるんだろう。)
『覇王様は力のある奴を望んでおられるからな。』
昨日のハント言葉が蘇る。彼の言う通りだとすれば、強制労働施設に集められているのは、相当性質の強い想像ばかりだということになる。
(強いものは歪みやすい。)
気をつけなければ、と王子は肝に命じた。こんな所で絡まれて消されていては、洒落にならない。
その背後で、ジーナはどこか憂いを帯びた顔で、同じ傷跡を眺めていた。
ルキはどの部屋にも入らなかった。代わりに次から次へと通路を渡り、階段を下り、どんどん地下へ、地下へと下りていく。

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