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真夜中の太陽と白昼の月

[278]  山枝 五碌  2010-07-01投稿
六月三十一日、深夜十時十二分。
人気のない一本道を、少年は自転車をゆらゆらと漕ぎ進めていた。
一体、どれほどの距離を走っただろうか─などという考えなど、少年の頭の中にはこれっぽちも座してはいない。
家からなるべく遠くへ、なるだけ離れて、少年は自分の家から逃げているような、そんな気分だった。
不等間隔に配置された街灯と、ガァガァと音をたてて灯している自転車のライトだけを頼りに、暗がりの道を、ただひたすらに進んでいる。

しばらく続いた暗がりを抜けると、大きく開けた道路に出た。
道路のラインに沿って隙間無く横付けされた店々も手伝ってか、とても賑わったそこは、深夜に一人、未成年者が自転車を走らせるには相応しくない場所であった。
賑わっているとは言っても、すれ違う人もまばらで、大抵は恐らく今夜の夜食をコンビニに調達に行くであろう若者や、タバコが切れたので、近くの自販機へ買いに行くのであろう中年男性などばかりで、皆共通して一人であった。
少年はそんな彼らに親近感と嫌悪感をおぼえつつも、すぐにハッ、と我に変えった。
─少年にはおおよそ「友人」と呼べる人間がいなかった。
いやそれは、彼の思い違いなのかもしれないが。

やや急いだ様子で賑やかな道路を抜けると、また暗がりの道に出た。
若者らしくないが、こういう何もないまっ平らな道が、少年にとって居心地のよいものだった。

そういえば、と彼は心の中でピン、と、こんな話を思い出した。

─〇〇の△△の辺りで、踏み切りに飛び込み自殺した女の幽霊が出る─

〇〇の△△─ってこの近辺じゃないか。
彼はふと、ちら、と斜め上を見上げる。
街灯に照らされた青い標識を目にした。
間違いない─
(どうする?女の幽霊だって?自殺っていうことは、色恋沙汰とか、でっかい不幸だとか、何らかの恨みがあったってのも否めないな。…もしかして、見たらとり憑かれたりしちまうのか?)

少年は踏み切りへと続く坂道の手前で、一旦自転車を止めた。
しばらくの間、頭の中で好奇心と保身の戦争が行われたが、ふと、少年はこんなことを思ってしまった。
─とり憑かれても、別に悪い気はしないかな─

幽霊は、自分の存在を認識してくれる存在にとり憑くという。
(なんだ、自分と同じじゃないか。)

少年は坂道をブレーキに触れることなく下りていった。

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