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欲望という名のゲーム?31

[395]  矢口 沙緒  2010-07-02投稿



五号室はこの屋敷の中でも特に異色だった。
この部屋だけが畳敷きになっているのだ。
上がり口で靴を脱ぐようになっている。
中には将棋盤と碁盤がいくつも置いてあり、そして左の棚には将棋の駒が、右の棚には碁笥が多数あった。
誰も靴を脱いでまで上がる者はなかった。

六号室はまさにチェスの部屋だった。
この部屋だけは棚ではなく、豪華な陳列台になっていて、百セット以上のチェスの駒が並べられてあった。
もちろんオーソドックスな形の物も多々あったが、かなり異形の駒もあった。
中にはどれがキングやらクイーンやら、区別のつかない物まである。
「雅則様はゲーム全般に通じておりましたが、その中でも特にチェスには熱心でいらっしゃったようです。
ここに陳列されてあります駒は、どれも非常に高価な物ばかりですが、特にこのチェスの駒のセットは…!」
鹿島はそこまで言って愕然とした。
「どうかしたんですか、鹿島さん?」
友子が心配そうに鹿島の顔を覗き込んだ。
「ないんです!
白のクイーンだけが無いんです!」
一同は鹿島の指差した駒を見た。
非常に小さい駒だった。
一番小さいポーンは一センチほど、一番大きいキングでも二センチまではなかった。
しかし、駒は神秘的なまでに美しく、とても凝った細工の物だった。
それが深紅の布を敷いた宝石箱のような中にきちんと収まっている。
ただし、白のクイーンの位置には、それが収まるべきへこみがあるだけだった。
「このセットはとても貴重な物で、白の駒は水晶で、黒の駒は黒水晶で出来ているのです。
これが作られましたのは百年以上も前で、当時イギリスで一番の駒職人の手作りで、二十セットだけ作られた物の一つです。
二十セットのうち何セット現存しているかは分かりませんが、ひとつは現存イギリスの女王陛下が所有していると聞いています。
しかし、なぜクイーンが…
いったい誰が?」
「白のクイーンを取った犯人は、きっと雅則兄さんね」
孝子が言った。

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