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欲望という名のゲーム?34

[414]  矢口 沙緒  2010-07-03投稿



明彦と喜久雄はすぐにベランダに興味を失い、再びリビングルームに戻った。
明彦は勝手にホームバーのブランデーを飲み始める。
喜久雄はソファーに座り、何か考え事をしているふうだ。
その時、入り口のドアの下のほうで、カタカタと小さな音がした。
今まで誰も気付かなかったが、ドアの下の部分に、縦横十五センチほどの観音開きの小さな戸があった。
それがゆっくりと向こう側から開き、猫がひょいと顔を出した。
「あら、あの猫」
孝子が言い、リビングルームに戻ってきた。
友子と深雪もそれに続 く。
五人の視線が注がれる中を、赤い首輪の猫はゆうゆうとした足取りで部屋に入ってきた。
小さな観音開きの戸はバネ仕掛けになっているらしく、猫が通り抜けると、すぐに閉じて閉まった。
「なんて名前だったっけ、この子」
と友子。
「確か、パブロよ」
孝子が応える。
猫は五人の顔を一通り見上げると、さっさとソファーの上に行って、丸くなってしまった。
「この猫が二百八十億の鍵なのね」
深雪がパブロを見ながらつぶやいた。
「猫に小判とは、この事だな」
明彦が言う。
五人がぞろぞろと食堂に戻った時、鹿島は一人でウイスキーを飲んでいた。
「いかがでしたか?
何か収穫がありましたか?」
喜久雄が首を振る。
「ガッカリなさる事はありません。
まだゲームは始まったばかりです。
それよりも、何かご質問は?」
「今は特にない」
明彦が代表する形で答えた。
「そうですか。
それでは今夜はもう遅いので、失礼させていただきます。
明朝の食事は八時です。
この食堂までお集まりください」
鹿島がそう言い終わった時、柱時計が十二時を打った。
第一日目の終了の合図だった。

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