欲望という名のゲーム?35
第三章
三毛猫という名の駒
1
四月十六日
八時には、すでに鹿島も含めた全員が、朝食のテーブルに着いていた。
スープ、トースト、ベーコンエッグ、サラダ、それにコーヒー。
誰も口をきく者はなく、無言のままの食事であった。
先に食べ終わった明彦が、失礼も言わず食堂を出ようとするのを、鹿島が呼び止めた。
「これからは各人が自由行動をとる事になりますが、夕食だけは六時にこの食堂にお集まりください。
昼食は適当な時に、各人が牧野さんに申し出てください。
特に時間は指定しません。
それから、昨夜ご覧に入れたビデオテープですが、人数分をダビングして、私の自室に置いてあります。
必要な方は取りに来てください。
私はほとんど自室にいますので、ご用あるいは質問のある方は、遠慮なくドアをノックしてください。
以上です」
孝子は食堂を出ると、すぐに図書室に入ってしまった。
喜久雄と友子は自室に戻った。
明彦はそくささと三階に上がっていった。
全員の姿が見えなくなったのを確認し、深雪は鹿島の部屋をノックした。
「どうぞ」
中から鹿島の声がする。
深雪が入ると、鹿島は机に向かって何か書き物をしていた。
部屋の造りは他の五部屋と変わらない。
ただ、ここにはソファー以外に机と、そして部屋の隅に金庫があった。
「ビデオテープを取りにみえたのですか?」
「それもあるけど、ちょっと聞きたい事もあるのよ。
あれよ」
ドアの内側に下がっている、黒い金属製の雅則の笑い顔を指差した。
「ああ、あれの事ですね。
やはり気になりますか?」
「当然でしょ。
ドアというドアに掛かっているんだから」
そう言いながら、勝手にソファーに座り、煙草をくわえる。
「あれはいつ頃からあるの?
ずいぶん前からあった物なの?」
「いえ、最近です。
雅則様が、お亡くなりになる三ヶ月ほど前に、取り付けたのです。
私はここに住んでいるわけではありません。
ほとんどは東京にいて、月に二、三度ほどこちらに伺うという程度です。
ある日、私がこちらに伺うと、あれがあちこちに下がっていたのです。
驚きましたね」
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