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ロストクロニクル 10―8

[396]  五十嵐時  2010-07-04投稿
「桜の花びら・・・」
三人が同時に戦闘態勢に入った。
「シャープ、チェロを安全な所へ」
「分かりました」
パットの言葉に素早く反応し、シャープとチェロは遠くへ避難した。
「早く出て来いよ」
ドローの言葉に応えるかのように、全ての桜の花びらが二人の前の一点に固まり、一気に散れば中から桜色の着物を身に付けた舞姫が現れた。
「もうじきこの戦いにも決着がつく」
舞姫の口調は以前とは全く変わって、非常に冷たい印象を与えた。
「ああ、タクト達が全ての『木彫りの不死鳥』を集めて、不死鳥を召喚することでな!」
パットの大剣を持つ手にもより一層力が入る。
「残念ね。不死鳥なんていないのに・・・」
二人が動揺した瞬間、舞姫は桜の花びらとなって二人に向かってきた。
「来たぞ!」
「分かってる!でも・・・相手の戦い方が全くわからない。それに・・・避け切れないだろ」
二人の視界全体を桜の花びらが埋め尽くしていた。
花びらは二人を包み込んだ。
「ようこそ、私の世界へ」
舞姫の笑い声が花びら全体から聞こえてくる。
「ドロー!」
不意に花びらの中から脇差しが現れ、ドローの左肩を貫いた。
ドローの悲鳴と今の状況のせいでパットも全く思考が働かなくなった。
「どこだ!」
闇雲に大きな剣を振るう。
「こっちこっち」
脇差しがパットの背を大きく斬りつけた。
パットの呻き声と共に花びらが姿を消し、代わりに舞姫が現れた。
「はぁ〜、つまんないな〜。じゃ、終わりってことで」
舞姫は以前のような明るい口調に戻り、脇差しでパットの背を貫いた。
「おっさん!」
パットは崩れ落ち、動かなくなってしまった。
その時、ドローは民家の中に隠れるひとつの影を見た。
「なるほど、チャンスは一瞬だな・・・」
ドローは全力でその民家へ駆け出した。
「無駄だってば」
舞姫は花びらになりドローを追い、影は民家の中へ身を隠した。
ドローは民家の玄関前へ辿り着くとその場にへたりこんでしまった。
「はい、次、君ね」
「いや、お前さ!」
氷の柱が玄関を突き破り、舞姫へ襲いかかった。
舞姫は全身が凍りついた。
「危なかったわね」
中にはシャープの姿があった。
「ああ、もっと早く・・・」
その瞬間、ドローは目を疑った。
二人を桜色の花びら包んでゆく・・・

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